Side朔夜

僕は、スタジオにいる。
物語に命を吹き込む場所。
僕達声優にとっては、聖なる場所。
音の粒を綺麗に拾い上げるために揃えられた、合計数百万以上の機械に囲まれている。
とても静かで、1つでも無駄な音を出すことは許されない。

いつものように台本を持つ。
いつものようにマイクに立つ。

僕の心は凪いでいる。
はずだった……。

「おい一路!」
監督の怒鳴り声が空間を突き抜ける。
空気が、揺れる。

「てめえふざけてんのか!何だその腑抜けた演技はぁ!」
「すみません……」

いつものように声を発する。
全てはいつものようだと思ってた。でも……。


僕の心は、何度も別のところにいってしまう。

……早く戻らないと……。

集中しようとすればするほど、陽の光すら吸収するような青白い彼女の顔が脳にチラついてしまう。