Side朝陽

なんで藤岡に電話なんかしたんだ俺は……。

ただ「仕事を抜ける」という連絡だけなら、うちの親にすればいいだけ。
……といっても、あの二人はこの時間は農作業に出ているだろうし……。
と、自分で自分に言い訳をしてみるが、虚しくなる。

俺は、藤岡に送ったばかりのLINEの写真に気づいて、急いで送信取消しようとする。
でも、あっという間に既読になった。
今更取り返しがつかないな、と思い、スマホを助手席に放り投げる。
アクセルを踏んで、もう出発してしまえばこの写真を送ったことも、見られたこともなかったことにできる。
でも、俺はそれができず、シートを倒して天井と向き合う。
目を開けていられず、目を閉じる。

とても眠い。
昨日、今日と、色々ありすぎた。
頭がぐちゃぐちゃする。
言語で物を考えようと思えば思うほど、何も出てこない。
ただただ、悔しい、苦しいというマイナスの言葉だけがどんどん浮かび上がる。

早く凪波を連れ戻したい。
あいつから引き剥がしたい。
凪波をちゃんと俺のものにしたい。

「私は娘の希望を最優先に叶えるつもりだ」

おじさんのあの言葉が、急にクリアに浮かび上がる。

凪波の希望は、俺なら全部叶えてやる。
それが、結婚するということじゃないのか?
その覚悟がないなら、プロポーズなんてしない!

「くそっ……」

お前ではダメだ。
暗にそう言われてる気がした。
窓から入ってくる太陽の光が、眩しすぎて、助手席側に顔を向ける。
その時、俺は自分の目から涙が出ていることに初めて気づいた。

でもそれが何を意味しているのか、わからない。
わかりたくない。