Side実鳥
「ちょっと待って!いきなり東京!?」
「悪い、もう時間がないんだわ」
明らかに焦っているのは分かる。
時々、自分の上司が軽く暴走するのは知っていた。
その理由はいつも一つ。
……このとんでもない暴走の理由は、あの子なのだろう。
「海原」
私は、あえて自分の上司としてではなく、同級生として語りかけることにした。
「凪波に何かあった?」
なかなか口を割らない。
続く無言の時間。
でも、電話を切る様子もない。
こう言う時は……。
「あのさーそろそろ東京の企業さんに、直接挨拶回りしようと思ってたんだよね」
「え?」
私からの突拍子もない申し出に対して、間抜けな声を出す上司。
表情を想像して、ぷっと吹き出しそうになってしまう。
ちらりと横目で、息子を見る。
保育園へ出かける準備は整ってはいるが、飽き始めたのかクレヨンでお絵描きを始めていた。
「ほら、葉がいるから泊まりで出張は難しいかな〜と思ってたんだよね」
「それは別に今じゃなくても……」
「社長が東京行くって言うのに、このチャンスを逃すほど私馬鹿じゃないわよ!」
「だからおい、話聞けって!」
「とりあえず、葉連れてすぐに行くから、早まるんじゃないよ!」
「は!?葉も!?」
「じゃ、すぐに行くから」
「おい!おい待て!」
文句を言われる前に電話を切ってしまう。
海原は葉をとても可愛がってくれている。
なので、葉の名前を出せば一通りのことは観念して飲み込む。
……本当はここまでする必要はないのかもしれないが、昨日今日で明らかに雰囲気が変わった上司を見過ごす程、私はドライではない。
まして、自分の大事な親友も絡んでいるのだとすれば……。
「あ」
しまった……行くって、どこに行くんだろう?
今の居場所聞き忘れた……。
仕方がない、電話かけ直すか。
出てくれるか分からないけれど。
と思った時だった。
海原からのLINEが届く。
中身は1枚の写真。
駅のロータリーだった。
車の中から撮影したのだということが分かる。
「言わなきゃわかんないのに……」
こう言うところが、ちょっとかわいいと思ってしまう。
私は葉を抱えて、長めに家を空けても大丈夫かを確認してから家を出た。
海原は、仕事が好きだと言っていた。
やればやるほど、成果が出るのは楽しいと言っていた。
だから、海原は従業員には休みを与えるけれど、よっぽどのことがない限りは毎日何かしらの仕事をしていた。
でも、その成果を見せたい人間がいたから、そこまで頑張れたのだろうと、私は知っていた。
そんな人間が、突然仕事を放り出すなんて、タダごとじゃない。
もし本当に凪波が関わっているのだとしたら……。
……ほんの微かにではあるけど、嫌な予感がした。
でもその予感を言語化できるほど、私は友人達のことを知ってはいない。
「ちょっと待って!いきなり東京!?」
「悪い、もう時間がないんだわ」
明らかに焦っているのは分かる。
時々、自分の上司が軽く暴走するのは知っていた。
その理由はいつも一つ。
……このとんでもない暴走の理由は、あの子なのだろう。
「海原」
私は、あえて自分の上司としてではなく、同級生として語りかけることにした。
「凪波に何かあった?」
なかなか口を割らない。
続く無言の時間。
でも、電話を切る様子もない。
こう言う時は……。
「あのさーそろそろ東京の企業さんに、直接挨拶回りしようと思ってたんだよね」
「え?」
私からの突拍子もない申し出に対して、間抜けな声を出す上司。
表情を想像して、ぷっと吹き出しそうになってしまう。
ちらりと横目で、息子を見る。
保育園へ出かける準備は整ってはいるが、飽き始めたのかクレヨンでお絵描きを始めていた。
「ほら、葉がいるから泊まりで出張は難しいかな〜と思ってたんだよね」
「それは別に今じゃなくても……」
「社長が東京行くって言うのに、このチャンスを逃すほど私馬鹿じゃないわよ!」
「だからおい、話聞けって!」
「とりあえず、葉連れてすぐに行くから、早まるんじゃないよ!」
「は!?葉も!?」
「じゃ、すぐに行くから」
「おい!おい待て!」
文句を言われる前に電話を切ってしまう。
海原は葉をとても可愛がってくれている。
なので、葉の名前を出せば一通りのことは観念して飲み込む。
……本当はここまでする必要はないのかもしれないが、昨日今日で明らかに雰囲気が変わった上司を見過ごす程、私はドライではない。
まして、自分の大事な親友も絡んでいるのだとすれば……。
「あ」
しまった……行くって、どこに行くんだろう?
今の居場所聞き忘れた……。
仕方がない、電話かけ直すか。
出てくれるか分からないけれど。
と思った時だった。
海原からのLINEが届く。
中身は1枚の写真。
駅のロータリーだった。
車の中から撮影したのだということが分かる。
「言わなきゃわかんないのに……」
こう言うところが、ちょっとかわいいと思ってしまう。
私は葉を抱えて、長めに家を空けても大丈夫かを確認してから家を出た。
海原は、仕事が好きだと言っていた。
やればやるほど、成果が出るのは楽しいと言っていた。
だから、海原は従業員には休みを与えるけれど、よっぽどのことがない限りは毎日何かしらの仕事をしていた。
でも、その成果を見せたい人間がいたから、そこまで頑張れたのだろうと、私は知っていた。
そんな人間が、突然仕事を放り出すなんて、タダごとじゃない。
もし本当に凪波が関わっているのだとしたら……。
……ほんの微かにではあるけど、嫌な予感がした。
でもその予感を言語化できるほど、私は友人達のことを知ってはいない。