Side 凪波

誰かが、私をとめどなく撫でてくれる。
「好きだよ」
と伝えてくれる。
そして何度も抱きしめてくれる。

私はその度にこう思う。

どうして私なんかにそこまでするの?
あなたに私の何がわかるの?

でも、それを伝えることは許されない気がした。
だから私は、言葉を閉ざし、ただ微笑むだけにした。
いつか私から離れるくせに。
だから私からは何も言わない。求めない。


その方が、ずっと自分の心を守れると思った。




でも、その誰かはますます私なんかに優しくしてくれた。
私を強く求めてくれた。



このままではまずい。
私は思っていた。
だから私は……。









ぱっと目を開ける。
綺麗な模様の白い天井が見える。
心臓が激しく鼓動する。
私は、ベッドらしき場所に横になっている。

「ここは……?」

軽い頭痛がすることがわかる。
手を頭に当てると、包帯がされていることがわかった。

一体何があった?
ここはどこ……?

思い出そうとするが、その度に、じくじくと脳がうずく痛みが走る。
なので私は、考えるという行為をすることを一度諦めた。
痛みを堪えるために体を折り曲げると、自分が寝転がったこともないような、ふかふかのベッドに寝ていたことがわかった。包まれるような心地よさのおかげか、少しずつ心臓の鼓動がおさまっていくのがわかる。

夕方なのか朝方なのかは分からないが、オレンジの光が窓から煌々と入ってくる。
何となく、その温かい光を見ているうちに、ついさっき見ていた夢の内容をすっかり忘れてしまった。


枕元に、メモが置かれていた。
「月が出る頃までに戻る」
とだけ書かれていた。

その文字は見覚えがある。
とても綺麗とは言えない殴り書きのものだった。
文章が……とても気取ったもので……これが例えば朝陽や実鳥が書いたものだったとしたら、きっと「ふざけてるでしょ」と言ってしまったかもしれない。

きっと書いたのはあの人だろう。
私のことを知っていると良い、キスまでしてきた超絶イケメンでイケボな人。
あんな人が、どう転んだら自分の人生でお目にかかれるというのか、理解が追いつかない。
一路朔夜という……有名な声優さん……だと聞いた。
あの人の文字だ。
電車の中で少し見えた台本に書かれていた。
書き込みがびっしりあって、とても勉強しているんだな〜ということに感心した。
その後のことは覚えていない。
次の記憶が今だったから。


ここはどこなのだろう?
あの人と私はどういう関係だったのだろう?
どうしてあんなにも……悲しそうに私なんかを見るのだろう。


あの人にとって私は、そんなに価値があったの?
だとしたら、何で私はそれを覚えていないの?


分からない。でも知りたかった。
あの人にとって、私って、何?





月が出るまでは、もう少し時間がかかりそう。