Side朝陽

凪波が消えた。
看護師が見回りに来た時にようやく分かった。
そう連絡を受けたのは俺らが病院を出てから1時間も経っていない時。
俺は、凪波の家でおばさんの話を聞いていた時だった。

リビングの電話が急に鳴り響いた。
おじさんが出る。
「いつも凪波がお世話になって……」
と言葉を繋げたので、病院からだということはすぐわかったが……。
「え!?」
おじさんは驚いた様子の声をあげ、一度俺とおばさんを交互に見た。

緊張が走る。
おじさんは、すぐに電話をスピーカーモードに切り替えた。
すると……。

「申し訳ございません!」
いかにも動転しています、というのが第一声で分かった。
この声は、いつもは冷静沈着に処置していた看護師だ。そんな人がここまで動揺しているなんて只事じゃない。
おばさんも血の気を引いた顔をしている。
凪波の体に異変が起きたのではないか……。


だけど……事態はそれ以上に深刻なものだった。

ベッドには、点滴を無理やり抜いた時に出た血の跡があったそう。
おばさん達が持ってきた荷物から、洋服だけ一式なくなっていたそうだ。

おじさんとおばさんは、急遽病院に戻り、直接関係者から説明を受けることになったので、俺はまた運転手を買って出た。


病院についた時、
「朝陽くんも、一緒に説明を聞くかい?」
とおじさんに声をかけられたが、俺は「ある可能性」を潰し損ねたことに気付いたので、おじさんの申し出は断った。
そして

「おじさん、俺すぐに行かないといけないところができたんだよね。車、駐車場に置いてから一度鍵渡しに戻ってくるから……後頼んでも良い?」

と、帰りは別々になることを告げた。
おじさんは、この時の俺の表情をどう読み取ったのかは分からない。
ただ、何も聞かずに頷いてくれた。



俺は急いでタクシーに乗りこみ
「駅まで」
と、乱暴に運転手に告げた。

確証はない。
もしかしたら違うかもしれない。
いっそ違って欲しい。

そんな可能性が1個存在する。







なんで俺は、あいつがいなくなったのかを、確実に、徹底的に確認しなかった。
あの状態の凪波が、あの場所から、自ら消えることなんてできるはずない。
じゃあ、誰がやった?
何のためにやった?



あいつしかいない。
あいつに違いない。



俺は自分の甘さを呪い、あいつという存在を徹底的に消し去りたいという欲が渦巻き始めた。
凪波の意思だろうとそうでなかろうと関係ない。
凪波を俺から奪い去ろうとすることが、何よりの罪だ。



一路朔夜。
俺は絶対、お前を許さない。
二度と凪波に近づけさせないようにする。