Side朔夜

僕は今、凪波と再会したホームにいる。
凪波が座っていたベンチに座りながら、凪波との過去を振り返る。

僕は、どうして彼女が妊娠していたことに気づけなかったのか。
そもそも、何故彼女は僕に妊娠の事実を告げなかったのか。
それとも、彼女自身が気づいていなかったのか。

医師の話からは、流産と言う言葉しか出てこなかったので、妊娠何週目だったのかは分からない。
でも……心当たりは……ある。1度だけ。

あの時期は、仕事が立て込んでいて、事務所からの指示でホテル暮らしを余儀なくされていた。
そんな中で、急なアクシデントがあり、半日だけでも家に戻れる日ができた。

急いで帰ると、凪波が一人分の夕飯を作っていたところだった。

「どうしたの?」

目を丸くして聞いてきた凪波の問いには答えず、勢いで唇を塞ぎ、洋服を剥ぎ取ってその場で行為に及んでしまう。
数ヶ月ぶりに凪波を味わったことで、理性が全く効かず、避妊のことが頭からすっかり抜けていた。気づいたのは、全てが終わった後に凪波の姿を見てから。

無言で天井を見つめる凪波に対して
「ごめん……」
と謝ることしかできなかった。
凪波はただ、しょうがないな……と言いたげな表情で僕を見ていた。

彼女の同意なく、彼女を犯したのはあの1度きり。
それから僕はまた、家に帰れない日々が続く。
次に家に帰ることができて、彼女を思う存分抱くことができたのが、2ヶ月後。凪波が消えた前日だ。


そう言えば……と、ずっと引っかかっていたことを思い出した。
普段、凪波は部屋ではパンツスタイルを好んで着ていた。
それがあの日は珍しくワンピースを着ていた。
とても似合っていたので

「可愛い」

と脱がせる前に繰り返し囁き、彼女が照れたように俯いたのも覚えている。

てっきり気分で洋服のテイストを変えたのだろう……と深く考えずにいたのだが……あれは妊娠していたからだった……?