Side凪波
暗くて静かな空間が広がる。
ここには、何もない。
でも、誰かが、私の名前を呼ぶ声が聞こえる。
お願い。私の名前を呼ばないで。
私の手を掴まないで。
追いかけないで。
どうか、どうかお願いです。
どん!どん!どん!
大きな、空間を引き裂くような重たい音が体に入ってくる。
そこで私はパチリと目を開けた。
天井が灰色で、腕には点滴があり、窓から外が見える。
先ほどまで、私が見ていた景色とは違って、ずっと現実だ。
「はぁ……」
額から、汗が滴り落ちる。
右手で拭おうとして、点滴に繋がれてることに気づいた。
……嫌だ……と思った。
理由が分からない不安が襲う。
……そうだ。
私はさっきまで、朝陽のりんご園にいて……。
おばさんがアップルパイ作ってて……少し話して……あれ?
その後……私はどうした?
どくん、どくんと、心臓の音が大きくなっていく。
太鼓がクレッシェンドしていくように。
「かはっ……」
苦しい……うまく呼吸が吸えない……!
考えれば考えるほど、私の胸がうまく動いてくれない。
どうして?
「凪波」
ほんの小さな声。
気のせい?
でも、確かに聞こえた。
ホームで突然私にキスしてきたあの人。
とても素敵な声をしていたあの人。
そして、私が無くしたものを知っていそうなあの人。
話したい。
あの人と。
コツ、コツと、通り過ぎる音が聞こえる。
待って……。
あの人が今までそこにいたとも限らないのに。
あの人が、今立ち去ろうとしているとも限らないのに。
待って!!
待って、待って、待って!!!
あの人を呼び止めたかった。
あの人を追いかけたくなった。
そうすれば、私は、この不安定さから救われる気がした。
……救われたかった。
暗くて静かな空間が広がる。
ここには、何もない。
でも、誰かが、私の名前を呼ぶ声が聞こえる。
お願い。私の名前を呼ばないで。
私の手を掴まないで。
追いかけないで。
どうか、どうかお願いです。
どん!どん!どん!
大きな、空間を引き裂くような重たい音が体に入ってくる。
そこで私はパチリと目を開けた。
天井が灰色で、腕には点滴があり、窓から外が見える。
先ほどまで、私が見ていた景色とは違って、ずっと現実だ。
「はぁ……」
額から、汗が滴り落ちる。
右手で拭おうとして、点滴に繋がれてることに気づいた。
……嫌だ……と思った。
理由が分からない不安が襲う。
……そうだ。
私はさっきまで、朝陽のりんご園にいて……。
おばさんがアップルパイ作ってて……少し話して……あれ?
その後……私はどうした?
どくん、どくんと、心臓の音が大きくなっていく。
太鼓がクレッシェンドしていくように。
「かはっ……」
苦しい……うまく呼吸が吸えない……!
考えれば考えるほど、私の胸がうまく動いてくれない。
どうして?
「凪波」
ほんの小さな声。
気のせい?
でも、確かに聞こえた。
ホームで突然私にキスしてきたあの人。
とても素敵な声をしていたあの人。
そして、私が無くしたものを知っていそうなあの人。
話したい。
あの人と。
コツ、コツと、通り過ぎる音が聞こえる。
待って……。
あの人が今までそこにいたとも限らないのに。
あの人が、今立ち去ろうとしているとも限らないのに。
待って!!
待って、待って、待って!!!
あの人を呼び止めたかった。
あの人を追いかけたくなった。
そうすれば、私は、この不安定さから救われる気がした。
……救われたかった。