Side朝陽
俺は今、おじさんの車を借りて、二人を彼らの家まで送っている。
おばさんが持ってきた着替えは、看護師さんに預けた。
おばさんは疲れたのか、後部座席で眠っている。
「朝陽くん、色々すまないね」
「いえ……気にしないでください」
「それにしても驚いたなぁ……。凪波にあんなイケメンの彼氏さんがおったなんてなぁ……」
と、おじさんがそこまで言って、しまったという表情で口を抑える。俺は、苦笑するしかなかった。
「……おじさん、あのさ……」
「……ん?」
おじさんは、あいつのことをどう思ったのか、一瞬気になった。
でも、聞いたところでなんだと言うのだ。
あいつをこの場所に置けば、きっとこうなると思った。
だからおばさんに、わざとあいつのことを言った。
おばさんはこれで、あいつを敵として見なすだろう。
でも、おじさんはおばさんの行動を止めるだけで、むしろ
「うちの家内がすまないね」
と頭さえ下げていた。
あいつは、聞いていたのかどうか分からない顔をしていたけれど。
「あいつのこと……どう思いました?」
「あいつ?」
おじさんは、少し考えて
「ああ……」
俺が誰の事を言ったのかが分かったらしい。
「家内からも聞いたよ。彼が……いろいろ知ってるかもしれないんだろう?凪波のこと」
「まあ……そうかもしれませんね……」
おじさんは、窓の外を見ながら
「凪波のことを、彼から聞ければ……良かったのかな……惜しいことをしたな……名刺でも渡しておくべきだったかな」
とぽつりと呟いた。
おじさんの反応は、俺の予想にはなかったものだった。
「おじさんは、許せないとは思わないんですか?」
「許すも許さないもないよ」
「どうしてですか?」
俺が聞くと、おじさんは天井を仰ぎながら、ため息をつく。
「……分からないことがたくさんあるからね……」
「でも、凪波の記憶喪失の原因が流産なら……相手の男に責任があるはず……」
「そうかもしれないな……」
おじさんはそういうと、チラリと後部座席のおばさんを見る。
深い眠りについている様子に、おじさんは安堵の表情を浮かべた。
「私はね、朝陽くん。まずは真実を知りたいんだ」
「真実……?」
「10年前、私は後悔をしたんだよ。娘の声をちゃんと聞かず、家内の言うことを鵜呑みにした結果、私達は娘をきちんとした形で送り出すことが出来なかった。それが今、娘はどんな形であれここにいる。例え娘の10年に何があったとしても……私は、娘を受け止めたいと思うよ。それが、10年前の娘への罪滅ぼしだと、私は考えているんだ。……家内はどう思っているかは……君も知ってる通りだがね」
「じゃあおじさんは、あいつのことを……」
許すの?と言葉を、俺から続けるのが怖かった。
でもおじさんは、きっと察したのだろう。
「まずは真実を知る。娘を知る。その上で、私は娘の希望を最優先に叶えるつもりだ。今度こそ」
その声は、今まで俺が知る、穏やかで優しいだけのおじさんではない。
「朝陽くん。君と娘が結婚することは、家内の望みだし、私もそれが今は1番いいと思っているよ」
今は……?
それは……まさか……。
凪波がもし、あいつを望んだら、おじさんはどうするつもりなんだ……?
俺は、アクセルを踏み込み、余計なことを考えないようにしたかった。
街並みが流れるスピードが上がる。
ふと、悠木先生の言葉を思い出す。
記憶喪失と今回倒れたことは繋がっていると、言っていた。
でも結局、その内容については聞けずにいたが、次会った時に必ず聞かないと……。
真実がなんだ。
おじさんの凪波への気持ちがなんだと言うんだ。
今も、そしてこれからも、俺が凪波を支える。
でも。
この時の俺は、1番してはいけない失敗をしたことに、まだ気付いていなかったんだ。
俺は今、おじさんの車を借りて、二人を彼らの家まで送っている。
おばさんが持ってきた着替えは、看護師さんに預けた。
おばさんは疲れたのか、後部座席で眠っている。
「朝陽くん、色々すまないね」
「いえ……気にしないでください」
「それにしても驚いたなぁ……。凪波にあんなイケメンの彼氏さんがおったなんてなぁ……」
と、おじさんがそこまで言って、しまったという表情で口を抑える。俺は、苦笑するしかなかった。
「……おじさん、あのさ……」
「……ん?」
おじさんは、あいつのことをどう思ったのか、一瞬気になった。
でも、聞いたところでなんだと言うのだ。
あいつをこの場所に置けば、きっとこうなると思った。
だからおばさんに、わざとあいつのことを言った。
おばさんはこれで、あいつを敵として見なすだろう。
でも、おじさんはおばさんの行動を止めるだけで、むしろ
「うちの家内がすまないね」
と頭さえ下げていた。
あいつは、聞いていたのかどうか分からない顔をしていたけれど。
「あいつのこと……どう思いました?」
「あいつ?」
おじさんは、少し考えて
「ああ……」
俺が誰の事を言ったのかが分かったらしい。
「家内からも聞いたよ。彼が……いろいろ知ってるかもしれないんだろう?凪波のこと」
「まあ……そうかもしれませんね……」
おじさんは、窓の外を見ながら
「凪波のことを、彼から聞ければ……良かったのかな……惜しいことをしたな……名刺でも渡しておくべきだったかな」
とぽつりと呟いた。
おじさんの反応は、俺の予想にはなかったものだった。
「おじさんは、許せないとは思わないんですか?」
「許すも許さないもないよ」
「どうしてですか?」
俺が聞くと、おじさんは天井を仰ぎながら、ため息をつく。
「……分からないことがたくさんあるからね……」
「でも、凪波の記憶喪失の原因が流産なら……相手の男に責任があるはず……」
「そうかもしれないな……」
おじさんはそういうと、チラリと後部座席のおばさんを見る。
深い眠りについている様子に、おじさんは安堵の表情を浮かべた。
「私はね、朝陽くん。まずは真実を知りたいんだ」
「真実……?」
「10年前、私は後悔をしたんだよ。娘の声をちゃんと聞かず、家内の言うことを鵜呑みにした結果、私達は娘をきちんとした形で送り出すことが出来なかった。それが今、娘はどんな形であれここにいる。例え娘の10年に何があったとしても……私は、娘を受け止めたいと思うよ。それが、10年前の娘への罪滅ぼしだと、私は考えているんだ。……家内はどう思っているかは……君も知ってる通りだがね」
「じゃあおじさんは、あいつのことを……」
許すの?と言葉を、俺から続けるのが怖かった。
でもおじさんは、きっと察したのだろう。
「まずは真実を知る。娘を知る。その上で、私は娘の希望を最優先に叶えるつもりだ。今度こそ」
その声は、今まで俺が知る、穏やかで優しいだけのおじさんではない。
「朝陽くん。君と娘が結婚することは、家内の望みだし、私もそれが今は1番いいと思っているよ」
今は……?
それは……まさか……。
凪波がもし、あいつを望んだら、おじさんはどうするつもりなんだ……?
俺は、アクセルを踏み込み、余計なことを考えないようにしたかった。
街並みが流れるスピードが上がる。
ふと、悠木先生の言葉を思い出す。
記憶喪失と今回倒れたことは繋がっていると、言っていた。
でも結局、その内容については聞けずにいたが、次会った時に必ず聞かないと……。
真実がなんだ。
おじさんの凪波への気持ちがなんだと言うんだ。
今も、そしてこれからも、俺が凪波を支える。
でも。
この時の俺は、1番してはいけない失敗をしたことに、まだ気付いていなかったんだ。