Side朔夜
何故、海原はこの場に僕を入れたのか。
凪波が記憶喪失であると言う事実を、認めろという理由だけなのか。
わからない。
この男の考えていることが。
凪波の家族や海原が、診察室の中心の方で食い入るように医師の話を聞いている。
それは、僕に「凪波の記憶喪失」と言う現実を容赦無く突きつける。
凪波が失ったと言う記憶は、僕にとっては決して失いたくないかけがえのない時。失うなんて信じられない。ありえない。
でも、彼女の中にはそれがない。
……認めたくない。
そんなはずはない。
海原の話を聞いてもなお、心のどこかで僕は信じていたかった。
本当は、彼女の中から僕は消えていないのだと。
でも、医師の話を聞けば聞くほど……その希望は薄れていく。
本当に……君は……何も覚えていないのか?
僕と話したことも?
僕と一緒に見たものも?
僕と愛し合ったことも?
……気づけば、僕の口から血の味がしていた。
強く唇を噛みすぎていたらしい。
ちっとも痛くはない。こんなのは……。
「この記憶障害の場合は、普段の生活の中で、何らかの精神的ストレスを多く抱えてしまった際に起きると言われています」
医師の言葉が引っかかる。
ストレス……?
僕との生活が、凪波にとってストレスだったと言うのか?
ふと……時折見せるようになった、凪波のあの表情が瞬時に頭をよぎる。
時々、何かを言いかけるような、でも躊躇う……諦めた笑いを、凪波はよくしていた。
「何?」
と聞いても
「ううん、何でもない」
とはぐらかされていたが。
もっと、あの表情の理由を、聞き出しておけば良かった。
だけど、医師が続けた内容は、僕の想像をはるかに超えていた。
「凪波さんの場合はそうですね……流産されていると言う診断も出ているので……もしかすると、それも原因かもしれません」
りゅう……ざん?
凪波は……妊娠をしていた……?
……僕の……子供……?
海原が、僕の方を見る。
その目には、先ほどよりもずっと分かりやすい負の想いが宿っている。
「お前のせいだ」
と目が言っている。
その目を見た凪波の家族も、僕を見る。
嫌悪を隠さない目で。
ああ……わかった。
僕のこの世界での立場が。
彼らにとっての僕は、凪波の記憶奪った「悪役」なのだ。
そして僕は、何も知らずにこの世界に足を踏み入れた愚者なのだ。
何故、海原はこの場に僕を入れたのか。
凪波が記憶喪失であると言う事実を、認めろという理由だけなのか。
わからない。
この男の考えていることが。
凪波の家族や海原が、診察室の中心の方で食い入るように医師の話を聞いている。
それは、僕に「凪波の記憶喪失」と言う現実を容赦無く突きつける。
凪波が失ったと言う記憶は、僕にとっては決して失いたくないかけがえのない時。失うなんて信じられない。ありえない。
でも、彼女の中にはそれがない。
……認めたくない。
そんなはずはない。
海原の話を聞いてもなお、心のどこかで僕は信じていたかった。
本当は、彼女の中から僕は消えていないのだと。
でも、医師の話を聞けば聞くほど……その希望は薄れていく。
本当に……君は……何も覚えていないのか?
僕と話したことも?
僕と一緒に見たものも?
僕と愛し合ったことも?
……気づけば、僕の口から血の味がしていた。
強く唇を噛みすぎていたらしい。
ちっとも痛くはない。こんなのは……。
「この記憶障害の場合は、普段の生活の中で、何らかの精神的ストレスを多く抱えてしまった際に起きると言われています」
医師の言葉が引っかかる。
ストレス……?
僕との生活が、凪波にとってストレスだったと言うのか?
ふと……時折見せるようになった、凪波のあの表情が瞬時に頭をよぎる。
時々、何かを言いかけるような、でも躊躇う……諦めた笑いを、凪波はよくしていた。
「何?」
と聞いても
「ううん、何でもない」
とはぐらかされていたが。
もっと、あの表情の理由を、聞き出しておけば良かった。
だけど、医師が続けた内容は、僕の想像をはるかに超えていた。
「凪波さんの場合はそうですね……流産されていると言う診断も出ているので……もしかすると、それも原因かもしれません」
りゅう……ざん?
凪波は……妊娠をしていた……?
……僕の……子供……?
海原が、僕の方を見る。
その目には、先ほどよりもずっと分かりやすい負の想いが宿っている。
「お前のせいだ」
と目が言っている。
その目を見た凪波の家族も、僕を見る。
嫌悪を隠さない目で。
ああ……わかった。
僕のこの世界での立場が。
彼らにとっての僕は、凪波の記憶奪った「悪役」なのだ。
そして僕は、何も知らずにこの世界に足を踏み入れた愚者なのだ。