Side朝陽

一路朔夜が、扉の前から動かない。
「もっとこっち来いよ」
「いや……ここでいい」

一路朔夜は、自分も中に入れたことに、疑問を抱いている様子だった。
悠木先生が一路朔夜に声をかけた時、おばさんは真っ先に反対した。
それはそうだろう。
そう、仕向けたのだから。

そして俺は、それでもあえて、あいつが中に入れるようにした。
その理由は…………。


「早速始めましょう」
悠木先生はは脳のCT写真や、頭蓋骨のレントゲン写真を俺達に見せてくれた。
本人の同意なしに、裸よりも先に深い部分を見ることについては、多少の罪悪感はあった。

もし、ここに藤岡がいて、これを言ったら
「いや、あんたそれ、ただの馬鹿」
と笑われただろうな……。


悠木先生は凪波の脳の画像を1つ1つ指差しながら
「まず、今回の出血の件ですが、額の部分が切れていました。頭蓋骨の骨折や脳内出血は起こしていなかったので、今のところは大丈夫でしょう」
「今のところは、と言いますと?」
「まさか、まだ何かあるんじゃ……」
おじさんとおばさんが聞く。
「頭部の外傷は、遅れて怖い病気を引き起こすことがあります。例えば、2週間から3ヶ月の間に起こるとされるのが慢性硬膜下血腫」
「それになると、うちの子はどうなるんでしょうか」
「頭痛や物忘れに始まって……半身に力が入らなくなったり、歩行障害……認知症のような症状も引き起こすことがあります」
「そんな……!」
おじさんとおばさんの動揺が、俺にも伝わってくる。
俺だって、内心怖くて仕方がない。

「もし凪波が認知症にでもなったら……ただでさえ……あんな記憶喪失になって……ほんとに可哀想で可哀想で……」
「お母さん、落ち着いてください」
悠木先生が、おばさんの肩を優しく叩き
「そうならないように、1週間程度入院して様子を見ましょう」
と、穏やかながらも、力強い声で励ました。

「それから、娘さんの記憶喪失の件ですが、あれから私の方で少し調べましたので、合わせてご報告させていただきますね」

そう言うと、悠木先生は複数の書類をデスクに並べた。