お願い、私を見つけないで 〜誰がお前を孕ませた?/何故君は僕から逃げた?〜

Side悠木

結ばれたぬくもりを知った後、その温もりが消えゆく寂しさと、ぬくもりを手に入れた喜び。
果たしてどちらが勝つのだろうか。


「……まさか……ぼっちゃま……この方法を雪穂様とご自身で使おうとされていたのですか?」

私は、あえてその問いには答えない。
その次にくる言葉は分かっていたから。

「流石に、それには同意しかねます」

やはり。

「この手法は、あなたにはできるかもしれませんが、あなた以外の誰ができると言うのです?下手したらどちらも死んでしまいます」
「それも、私は悪くないと思っているがな」
「……何ですって?」
「結婚式の時、やめる時も健やかなる時も共にいることを誓うだろう。でも、死ぬ時も共にとは誰も言わない」
「それは」
「分かっているさ。死ぬときは、基本は一人だ。……私は、その悲しみを少しは知っているつもりだが」
「……そうですね……それは……」

山田は、私が何を指して言っているのかすぐに理解できたようだった。

「一路朔夜の脳が無事で良かった。それがなければ、彼女との約束を果たせそうになかったからね」
「凪波さんのことですか?」
「ああ。

彼女自身は、きっとそんな約束なんて身に覚えはないだろうが。

「それにしても、何度見ても慣れませんね。人間がこんな状態で繋がるなんて」
「私も、実際やったのは初めてだからな」
「こんなこと、普通は考えませんよ」

私が二人のためにしたこと。
それは、二人の脳と心肺機能を管を使って繋いだことだった。
一路朔夜の脳の記憶を畑野凪波の脳の記憶とリンクさせることで、二人は別々の体にいながら同じ記憶を共有することができる。
一路朔夜の中には、数多くの畑野凪波との幸せな記憶がある。
どんな風に一路朔夜が彼女を愛したのか。
どれほどまでに一路朔夜が彼女を恋しがっているのかを畑野凪波はダイレクトに感じることができる。
彼女は自由を欲しがっていたと自分では思っていたようだが、本当は違う。
彼女が欲しかったのは自由ではない。
彼女が欲しかったのは……どんな自分でも、受け入れてくれる誰かだ。
その願いがこの形になってようやく叶ったのだ。
一方、一路朔夜が願ったのもまた、畑野凪波とずっと一緒にいること。
それは、死を迎える時も。
この形にすることで、彼らは死ぬ時すら同時にやってくるのだ。
生も死も、決して二人を分つことができない。
その時が来るまでも、来てからも、共に居続けることができる。

その究極の形を、私は二人に提供したのだ。
もちろん、実験という形ではあるので、失敗のリスクはあったが。


「こんなこと、神はお許しになるのでしょうか」

山田がボソリと囁いた。