Side悠木

そうそう。君を追い詰めた人たちがどうなったかについても、教えてあげようか。

まず、君と一路朔夜の事務所だが、あのあと潰れてしまった。
当然だろうね。
あの社長はトカゲの尻尾と同じだからさ。
意味は……君なら言わなくても分かるだろう。
現れそうになった真実は、そのまま現れた分だけちょん切ってしまえば、残りはまだ闇に潜るだけ。

次に宮川のりえについてだが。
彼女は死んだ後、一時的にファンが購買運動をしたり、悲劇のヒロインとして扱ったようだよ。

もっと早く知っていれば。

そんな声がアニメファンの間で広まったらしい。
けれど、やはり衝撃的な死に方をした死者への憐れみという気持ちは、一過性のものでしかない。
無理やりアルコールをかけて火力を上げたにすぎない。
あっという間に、彼女の存在は再び忘れられてしまった。
君にした仕打ちごとね。

そして……君にとっては因縁の人でもある郷森一果。
彼女の生命力はすごいな。
あの生放送の日、一路朔夜にわざわざ喧嘩を売ったのもそうだが、その後の流れが見事だ。
あの暴行事件を郷森一果はあくまで演技だと言い張っただけでなく、その音声を使ったYouTubeの動画を作ってしまったんだ。
もちろん、フィクションとして。
役者として、君の名前も宮川のりえの名前も出した上で

「彼女たちは素晴らしい演技をする声優でした」

と、君たちの演技を賞賛するためのプロジェクトとして宣伝したおかげもあり、今や彼女はYouTube声優の中では有名な存在になってしまった。
皮肉だな。
郷森一果は君が人生を狂わせた人だ。
君の中にも、無意識に罪悪感はあったのかも、しれないね。
郷森一果もまた、君が自分の人生を狂わせたと思っていた。
君への恨みが募っていった。
何より、彼女の方が闇の世界の世渡りはとても上手だった。
だから、彼女は彼女なりに復讐を遂げて満足をしたのかもしれないね。
今イキイキと輝いている。
テレビにも注目されるようになったよ。
今注目のYouTubeクリエイターとして、ね。
けれど、君たちは知っているだろう？
そういう時ほど、どこの地雷が爆発するか。

まあ、仮に巻き込まれたとしても、郷森一果ほどの人間なら、難なくクリアしてしまうかもしれないな。
彼女は、泥を啜ってでも生き残ることを選んだタイプだ。
そういう人間が腹を括るとね……ちょっとやそっとじゃ動かない。
だからまあ……彼は、ある意味無駄なことをしてしまった、ということだろう。
気の毒だが、人間は常に自分の価値観と違うという前提で動かなければ、戦略を立てても、その苦労は水の泡と消えてしまう。


まあ、もう過ぎたことだ。
郷森一果という人間の生き方は、私は別に見習いたいとも思わないし、雪穂の体にするには汚れすぎているから、たとえ体を捧げられたところで拒否はしていた。


だからこれ以上はもう、郷森一果のことは私は追いかけないことにするけれど、君もそれでいいよね？



そして一路朔夜については……すまないね。
まだ、話せるタイミングじゃない。
大丈夫だ。
きっともうすぐ君なら、一路朔夜とは会えるかもしれない。
その時君と一路朔夜は、幸せな夢にい続けることができるだろう。
その幸せな夢を、きっと君は次選ぶことになるだろう。



なんで君にここまで教えてあげてると思う？
君たちの存在のおかげで、私の夢を叶える方法の可能性が広がったからだよ。



君たちの、命をかけた私への献身は、生涯私はありがたく使わせてもらうことにする。
それが、君に「幸せ」を提供する私からの対価だ。