お願い、私を見つけないで 〜誰がお前を孕ませた?/何故君は僕から逃げた?〜

Side朝陽

俺は、凪波の遺書の画像を送ってからすぐ、通話を切ってしまった。
俺は、凪波のために正しいことをしたはずだ。
だから、ちょっとだけ順番を入れ替えたことくらい、なんでもないはずだ。
凪波があの文章を書いたのは事実だ。
俺は、その文章の流れを正しい形に直しただけだ。
もう2度と、一路朔夜が凪波に近づこうとしないように。

「帰ったら、テレビも捨てないとな」

テレビをつければ、今はどのチャンネルでも必ず1回はあいつの声を聞くようになった。
アニメやナレーション、ドラマにバラエティまで。
……俺なんかとは、世界が違うはずだった人間だ。
例え、それが凪波が作ったとしても。
俺には関係ない。

俺にとって一路朔夜は俺の世界じゃない、別の世界で生きるべき人間だったし、これからもうそうあるべきだ。
もちろん、凪波は俺がこっちの世界に連れていく。

「ざまあみろ」

そう囁いた時、俺のスマホが鳴り響いた。

「一体誰だよ……」

俺はこれから凪波の手術がちゃんと無事に行われるか、見張らないといけないと言うのに。

「え……?なんで……」

着信元は、俺のりんご「凪」を多く仕入れてくれている有名ケーキ店の社長だった。

「はい、海原です」
「海原さん、どういうことですか?」
「どういうこととは?」
「どうもこうもないですよ。いい迷惑なんですよね」
「それはどういう……」
「海原さん。今ネットの生放送に出ていましたよね」
「……はい?」
「声優の一路朔夜の生放送」
「待ってください、どういうことですか!?」

俺は電話はしていた。
一路は生放送を確かに切ってなかった。
でも、俺の声は……聞こえなかったはずだ。
……本当に?
俺は確かに生放送ではなく、電話口にしか意識を向けていなかった。

「なんであなたあんなのに出たんですか」

何だ?
何が起きた?

「海原さん、そこで今話題の女性を殺すという発言をしてましたよね」
「そ、それは……ちが……」

俺は殺すという発言をしたわけじゃない。
凪波が望むならそうするしかない。
そういう意味で言っただけだ。

「言い訳は結構です。今ネット上であなたのことが話題になってます。人殺しの経営者って」
「そんな馬鹿な」
「疑うのは結構ですが、我々としてもリスクは排除したいんですよね」
「どういう意味ですか?」
「申し訳ないですが、取引を中止させていただきます」
「ちょ、ちょっと待ってください!」


通話は無常にも切れた。

「俺の発言……?」

俺はその意味を知るために、急いであらゆるSNSを調べた。
意味はすぐ分かった。

「何だよ、これ……」