お願い、私を見つけないで 〜誰がお前を孕ませた?/何故君は僕から逃げた?〜

Side悠木

危ういな。

思った以上に、海原朝陽はよくやった。
やりすぎた。
彼女の自殺の本当の原因を言うかもしれないとは思っていたが、まさかノートの切り貼りまでやるなんてね。
咄嗟に思いついたのか分からないが、並び順まで変えるなんて……。


「凪波さん、君はどんな悪女なんだい?」


少なくとも、海原朝陽は君に関わらなければ、平凡でごく普通の幸せを歩んでいただろう。
時折短気なのは玉に瑕だが、人間は誰しも欠点はある。
それを差し置いても、海原朝陽は立派な経営者として名前が広まり、良い家庭陣にもなり得た人物だろう。
だが、もうその可能性は潰えた。
私が手を下したわけでもない。
もちろん、彼女は何も知らない。知るはずがない。
何故なら最初から、彼女の心に彼はいなかったから。
だから考えようもなかったのだ。
自分の行動で、自分が想像もし得ない範囲で悪影響が及ぼすことになるなんて……。


「やはり、ドナーが必要な状態だな」


彼女の脳のダメージは、予想以上だった。
私が無理に閉ざした記憶の器官を、無理やり彼女自身がこじ開けようとしたことで、損傷が広がったのだろう。


「一か八か、あれをやってみるか」


どうせこのままいても、死体が2つになるのが関の山。
ならばいっそ。
雪穂を助ける手段の1つとして考えていた術式。
けれど、リスクはあまりにも大きすぎる。
必要な条件もなかなか揃わなかった。
だから、これまでは試すことすら躊躇われた方法だが……。


「山田、聞こえるか」
「はい」


すでに、この部屋のスマートスピーカーで、山田の別のスマホとは繋がっていた。


「一路朔夜は、まだ無事か」
「はい。でも、油断はできないかと」
「そうか、こちらも時間がない。絶対にまだ一路朔夜を死なせるなよ」
「かしこまりました」


山田は、いつものように温度のない声で返事をした。
私もまた、彼らに対する感情を忘れ、雪穂を蘇らせる
ことだけを考えながら、凪波さんの脳の手術を進めることにした。


「海原君。私は君との約束は守ってあげよう」


君が凪波さんともう1度話ができるまで耐えられるか……も、君次第……だがね。