お願い、私を見つけないで 〜誰がお前を孕ませた?/何故君は僕から逃げた?〜

Side朔夜

僕は、聞き間違えたのか?

「凪波を……殺す……?」

そんなことを、この電話の先にいる男が言うのか?
僕から凪波を奪うくらい、僕の次くらいに凪波を想っている男が?

「海原、そんなこと言ってないよな?」
「言った。俺は、いつか凪波を殺す覚悟ができた」

……何故だ?
何故だ何故だ何故だ何故だ!?

「海原!!ふざけるな!!」
「ふざけてない!俺は本気だ!」
「何が本気だ!?本気で彼女を殺すなんて、よく言えるな!」
「凪波が望めばと、言っただろう!?」

その瞬間、耳鳴りがした。
キーンと、鋭い痛みが、耳を貫いた。
それから、僕が次の言葉を話す前に、海原が言葉を重ねてきた。

「何のためにここにいるの?」
「……海原?」
「何のためにここまでしたの?」
「待て、海原。何を言っている?」
「何のためにここまでしたの?…………これは、凪波が残した言葉だ」
「凪波の言葉……?」
「凪波は、遺書を残してた。今のは、その内容だ」

そんなもの、一体どこで……と考えて思い出した。
あのノートについて。
唯一、絶対に凪波が僕に触らせなかったもの……。
悠木の屋敷で何故か見かけたあれが、凪波の遺書だったのだろうか。


「続けるぞ。よく聞け。…………幸せになれると思ったのに。こんなはずじゃなかったのに。どこで歯車が狂ったの?誰のせいで歯車が狂ったの?どこまで頑張ればいいの。もう、立ち上がれない。立ち上がりたくない。……ここまでが、凪波の遺書だ。凪波はこれを書いて、死のうとしてたんだ」

言葉の意味を、必死で理解しようとする。

「あの2人に対する遺書じゃないのか?」

そうとしか、思えない。
でも……。

「あの人を知った時、私は嫉妬した。あの人と出逢わせた全てを、呪った。あの人を存在させた神様が、憎かった。これが、遺書に書かれていた最後だ」
「何を……言いたい……」
「わからないのか?一路」

嫌な予感がした。
聞いてはいけないと、思った。
電話を切ってしまおうかと思った。
そもそも、この電話を続ける意味が分からないから。
でも……。

「凪波が残した、お前への本心だよ」

間に合わなかった。