お願い、私を見つけないで 〜誰がお前を孕ませた?/何故君は僕から逃げた?〜

Side朝陽

あー俺は馬鹿だ。本当に。
悠木先生にスマホを渡された時、一路と話すことができるとは暗に言われていたけど、話せとは言われていない。
それなのに、俺は咄嗟に

「今、一路と話さなくては」

という使命感に駆られたという訳だ。
一路と繋がってしまい、つい

「やっちまった……」

と言いそうになったのは、全力で死守した。

「ちょっと、話したいことがある」

そんな言葉で、一旦濁した。
ほんの少しの猶予で、次何を言うべきか、考えまくった。
たぶん、言わなきゃいけないことがたくさんあった。
でも……一路が一体何を考えているのか、それとも何も考えてないのか。
生放送がされたまま俺の電話に出やがったものだから。
俺の声は放送で入っていなくても、一路の反応が全世界に配信される状態だ。

なんてことをしちまったんだ……!

俺はまた、勢いだけで先走ったことを後悔しそうになった。

どうする?
何を話せばいい?

何か言うべき言葉のヒントにならないか、一路の生放送のコメント欄をちらと見た。
どこから漏れたのだろうか分からないが

宮川のりえが死んだかも

というコメントがさっと流れた。
あまりにもすぐ消えてしまった。
俺との電話に対する

おい、なに電話してんだよ!
何話すの?
wktk

と言った茶化しのコメントが押し流したから。

他にも言うべきことはあったはずだ。
それこそ、悠木先生が凪波の手術をしてくれることになったことの方が、ずっと大事な話だ。
何故、悠木先生が手術をしてくれることになったのか、も……。

俺は、未来は変えられると思った。
だから、今未来の可能性を俺だけで決めたくなかった。
もしかすると、それは俺の逃げだったのかもしれない。
俺1人で、凪波の未来を閉じる決断をしたくないという。
だから俺は、引き伸ばしただけなのかもしれない。
今この時になって、俺は情けないことに本当の意味で腹を括れていなかったことに気付かされた。

でも、未来に腹は括れてなくても。
過去は決して変わらない。
変えられない。
今こうして流れていくコメント欄の用に、あっという間に今が過去になってしまう。


そして、俺たちはたった今、とりかえしのつかない過去を1つまた生み出した。

宮川のりえを自殺させた。

だから……俺はこのことを話すことに決めた。
その結末がどうなるかは、分からない。
何故なら、まだ変えられる結末だから。
その間に、俺自身が一路に何を話したいのか……ちゃんと考えなくてはいけない。


「宮川のりえが死んだ」

そうして放った言葉は、情けないほど小さな声になってしまった。