お願い、私を見つけないで 〜誰がお前を孕ませた?/何故君は僕から逃げた?〜

Side朔夜

僕は、山田さんの顔を見た。

何故、かけて来られるのか、は分かりきっている。
何故、このタイミングで海原が僕に電話なんかをかけてくるのかが分からない。
そのヒントが、山田さんの表情から読み取れないか、と考えた。
でも、決して山田さんは見せてこないのだ。
彼の裏に隠れた物語を。

仕方がない……。

「話したいこととは?」
「…………んだ……」

あまりにも小さな声。
まるで、蚊の鳴くような。
聞き取りづらさが、僕の感情を逆撫でしてくる。

「ねえ、聞こえないんだけど」
「……死んだよ」
「……え?」

僕はその時、テーブルの角に手をぶつけてしまったのだろうか。
急に手に痛みが走った。

「……何て言った……?」

僕の問いかけに、海原が嫌なため息をついた。
息の音が、ひどく耳障りだと思った。

「死んだんだよ」
「誰が」
「…………宮川のりえだよ」
「……は?」

まさか?
本当に?

「今、死んだって言ったのか?宮川のりえが?」

僕は、生放送をしていることを分かっていたのに、宮川のりえの名前をわざわざ出した。
その代わり、海原の名前は出さないように気をつけた、つもりだ。
僕にはまだ、それくらいの分別はある。

だったら生放送そのものを止めれば良いのに、と僕自身思う。
けれど、どうしてかは分からないが……止める気にはなれない。
止めてはダメな気がしたんだ。
何故なのかは、もう僕自身答えを見つけられない。

「電車に飛び込んだらしい」
「え?」
「お前がこの生放送を始めてからどれくらい経った?」
「急になんだ」
「お前がこの生放送でやらかしたことはなんだ?」
「……何が言いたい」

その時だった。
電話口から、鼻を啜るような声が聞こえた。

「お前は……凪波が与えたその全てで、人を殺したんだ」