Side朝陽
「それがどういうことか、分かっていっているのかい?」
悠木先生が、急に俺を睨みつけてきた。
きっと俺は、先生にとっての想定外の回答をしたのだろう。
俺は、悠木先生の睨みに負けそうになるのを、必死に歯を食いしばって耐えた。
「分かってます」
「もう1度考えてみろ。この世界に、彼女を戻すことが本当に正しいと、君は思うのか?」
「……それは……」
正しさ。
悠木先生との会話でずっと使い続けた単語。
正しいとは一体誰にとってなのか。
何のためなのか。
俺はずっと考えさせられてきた。
「すでに、この騒動で人は1人死んだ。凪波さんの名前はもうデジタルタトゥーの形でこびりついている。彼女が死にたいと願った時より、状況はずっと悪化している」
「それ……は……」
「そんな状況で凪波さんを戻したとして、だ。君が知っている凪波さんに戻れる保証もなければ、凪波さんと繋がっている君たちにも、どんな被害が及ぶか分からない。そして君はいつかこう思うかもしれないんだ。凪波がいなければ俺は幸せだったかもしれないのに、と」
「そんなこと思うわけ」
「100%は世の中には存在しない。君は、凪波さんを疎み、いっそ死んでくれたらこんな重荷を背負わずに済んだのにと思う日は来てしまうかもしれないんだ」
悠木先生は未来の話ばかりする。
少し先の。
でも未来と今は決定的な違いがある。
「未来は、変えられる」
「何……?」
「先生だって、そう思ったから雪穂さんの死に抗おうとしたんじゃないですか?」
「…………ほう」
悠木先生が歪んだ笑みを浮かべた。
「俺は……」
ずっと言葉にならない思考で考えていたことがある。
でもそれを言葉にする勇気がなかった。
言葉にしてしまえば、現実にしないといけない気がしたから。
でも、もう逃げられない。
ここで逃げれば、俺は今を失うことになる。
今失えば、未来も失う。
でも、今を失わなければ未来は選べる。
まだ、未来は決まっていない。
俺はそう思う。
だから。
「本当に凪波が死にたいと俺に望むなら。俺が、ちゃんと凪波の願いを叶える」
例えそれをエゴだと笑われたとしても構わない。
今目の前で、何もしないまま凪波を失くすくらいなら。
俺は、俺の意志で凪波と向き合いたい。
そして決めたい。
凪波を逝かせるかどうかを。
ただしその時は。
俺もタダでは済まない。
その覚悟が決まるのに少し時間がかかったけれど。
もう俺は、選ぶことに決めた。
凪波の望みは、俺が全部叶えてやることを。
悠木先生は、少しの間表情も変えず、無言を貫いた。
それから、深いため息をついてから、ポケットからまた別のスマホを取り出して俺に渡した。
「これは……」
「彼の側には、山田がいる」
「え……」
「このスマホは、唯一山田とだけ連絡がつくようになっている」
「どういう意味ですか」
「このスマホを、どう使おうが君の自由だ。好きにしたまえ」
悠木先生はそう言ってから、こう言葉を続けた。
「私は、しばらく外には出られそうにないからな」
その視線の先には、凪波がいた。
「それがどういうことか、分かっていっているのかい?」
悠木先生が、急に俺を睨みつけてきた。
きっと俺は、先生にとっての想定外の回答をしたのだろう。
俺は、悠木先生の睨みに負けそうになるのを、必死に歯を食いしばって耐えた。
「分かってます」
「もう1度考えてみろ。この世界に、彼女を戻すことが本当に正しいと、君は思うのか?」
「……それは……」
正しさ。
悠木先生との会話でずっと使い続けた単語。
正しいとは一体誰にとってなのか。
何のためなのか。
俺はずっと考えさせられてきた。
「すでに、この騒動で人は1人死んだ。凪波さんの名前はもうデジタルタトゥーの形でこびりついている。彼女が死にたいと願った時より、状況はずっと悪化している」
「それ……は……」
「そんな状況で凪波さんを戻したとして、だ。君が知っている凪波さんに戻れる保証もなければ、凪波さんと繋がっている君たちにも、どんな被害が及ぶか分からない。そして君はいつかこう思うかもしれないんだ。凪波がいなければ俺は幸せだったかもしれないのに、と」
「そんなこと思うわけ」
「100%は世の中には存在しない。君は、凪波さんを疎み、いっそ死んでくれたらこんな重荷を背負わずに済んだのにと思う日は来てしまうかもしれないんだ」
悠木先生は未来の話ばかりする。
少し先の。
でも未来と今は決定的な違いがある。
「未来は、変えられる」
「何……?」
「先生だって、そう思ったから雪穂さんの死に抗おうとしたんじゃないですか?」
「…………ほう」
悠木先生が歪んだ笑みを浮かべた。
「俺は……」
ずっと言葉にならない思考で考えていたことがある。
でもそれを言葉にする勇気がなかった。
言葉にしてしまえば、現実にしないといけない気がしたから。
でも、もう逃げられない。
ここで逃げれば、俺は今を失うことになる。
今失えば、未来も失う。
でも、今を失わなければ未来は選べる。
まだ、未来は決まっていない。
俺はそう思う。
だから。
「本当に凪波が死にたいと俺に望むなら。俺が、ちゃんと凪波の願いを叶える」
例えそれをエゴだと笑われたとしても構わない。
今目の前で、何もしないまま凪波を失くすくらいなら。
俺は、俺の意志で凪波と向き合いたい。
そして決めたい。
凪波を逝かせるかどうかを。
ただしその時は。
俺もタダでは済まない。
その覚悟が決まるのに少し時間がかかったけれど。
もう俺は、選ぶことに決めた。
凪波の望みは、俺が全部叶えてやることを。
悠木先生は、少しの間表情も変えず、無言を貫いた。
それから、深いため息をついてから、ポケットからまた別のスマホを取り出して俺に渡した。
「これは……」
「彼の側には、山田がいる」
「え……」
「このスマホは、唯一山田とだけ連絡がつくようになっている」
「どういう意味ですか」
「このスマホを、どう使おうが君の自由だ。好きにしたまえ」
悠木先生はそう言ってから、こう言葉を続けた。
「私は、しばらく外には出られそうにないからな」
その視線の先には、凪波がいた。



