お願い、私を見つけないで 〜誰がお前を孕ませた?/何故君は僕から逃げた?〜

Side朝陽

でも。
俺は、その言葉に自分1人で酔いきるわけにはいかなかった。
何故なら……。

「一路は……それを望まなかった……んですよね?」
「ん?」
「さっき、悠木先生、言ったじゃないですか。一路が求めたのは肉体のスペアだって。それは……つまり……」

こんなことは考えたくなかったけれど。
一路は凪波を陥れた人間の体を、悠木先生に差し出そうとしていたのかもしれない。
凪波の代わりに、雪穂という存在を生かす生贄を。
そのために、どうしてあんな大袈裟なことをしたのかは、俺には理解できないが。
もっと目立たないようにすればいいのに。
自殺させるだけなら、いくらでも方法はあるじゃないか。
凪波だって……一路が気づかない形で、追い込まれたんだから……。

そうだ。
どうしてそこに気づかなかった。
一路はどうしてわざわざ、生放送なんて面倒なことをしたんだ?
肉体のスペアが欲しいという理由だけなら、ここまでする必要はなかったのに。

分からない。
悠木先生も一路も。
何を考えているのか。
どうしたいのか。
どうすればいいのか。
俺にはちっとも分からない。


分からない俺は、ダメなのか?
分からないことは、ダメなことなのか?
だとするなら、今俺が凪波の次を決めるのも、ダメなことなんじゃないか?

考えた。
きっと俺の語彙は、一路より、悠木先生よりずっと少ない。
だからこの2人は俺をバカだと思っているのだろう。
そして2人は、2人にしか理解できない何かを声の外で共有して、今まさにこうして立っているのだろう。

彼らの中で結末はもう決まっているのかもしれない。
俺は、その結末を決める土俵にはすでにいないのかもしれない。
分からない。
いくら考えても見つからない。
だとすれば、もう今の俺にできることってこれしかない。



「先生」

小学生でもこんなことを言わないかもしれない。
俺は読書する小学生より、ずっと言葉が足りないのかもしれない。
それでも、俺は必死に持ってる言葉で、俺の素直な言葉を口にした。



「凪波と、もう1度会いたい」


雪穂としてではない。
凪波と、会いたいのだ。
シンプルすぎた願い。
でも色々考えた。
色々見た。
結果これしかもうないのだ。

俺には。