Side朝陽
突然の警告音。
頭の中に、ドラム缶が侵入してきたのではないかという程の、ガンガンと鈍く激しい音が部屋中に響き渡る。
「もう限界のようだな」
悠木先生は、凪波の体を見ながら言う。
「海原君。もうタイムリミットだ」
「……え…………」
「凪波さんの脳は、間も無く本当に終わってしまう」
「終わ…………る?」
「その前に、決断してくれ」
悠木先生は数字の2を指で作って俺に見せてくる。
「凪波さんの意志を尊重し、彼女自身はもうゆっくり眠らせて……私の雪穂に彼女の体を与えるか」
私の雪穂という言葉に、思いがこもっていることが、悠木先生の声の圧で分かった。
「それとも……ここで私が凪波さんの脳に処置を施して、現状維持を試みるか」
「現状維持……?」
「助けるわけではない。むしろそんな見込みはほぼない。そこにメスを入れたら、雪穂の体としても機能できなくなるかもしれない」
「それはどういう……」
「体を維持するための脳機能すら、私がこのタイミングでメスを入れたら使い物にならなくなり、ただの肉体にしかならなくなる……その可能性が高いということだ」
悠木先生は、ふっとここに来て脱力したような笑みを浮かべた。
そして言った。
「海原君。私はね、こう思ってしまったんだよ。雪穂が死にゆく時にね。この体にもう触れられなくなるのか。街中ですれ違うこともできないのか。この世界に存在しなくなるのか。それがどんなに自分の気を狂わせるのかも……」
俺は、その言葉を自分に置き換えてみた。
凪波の体に触れられない未来。
この世界のどこにもいなくなる未来。
想像して、すぐに思った。
無理だ。耐えられない。
寂しくて悲しくて、どうしようもなくなりそうだ。
気が狂うとは、こういうことか、と俺は思った。
「だが……」
悠木先生は、らしくもなく、俺の手を掴んできた。
「もしも、凪波さんを、雪穂として肉体を生きさせてくれるなら、生きたいと願った雪穂の心も、死にたいと願った凪波さんの体も救われる。どちらも、願いが叶う。私達も、完全に彼女たちを失うことはない」
完全に失わない。
その言葉は、俺の理性を容赦無く奪い去ろうとする。
このまま死という形で凪波の全てを失うくらいなら……。
「どうだい?凪波さんを雪穂として生きさせて、私達の愛する人がいなくなる未来を阻止しないかい?」
悠木先生が俺を誘う声は、とても甘く感じてしまった。
くらりと、酔いそうになった。
突然の警告音。
頭の中に、ドラム缶が侵入してきたのではないかという程の、ガンガンと鈍く激しい音が部屋中に響き渡る。
「もう限界のようだな」
悠木先生は、凪波の体を見ながら言う。
「海原君。もうタイムリミットだ」
「……え…………」
「凪波さんの脳は、間も無く本当に終わってしまう」
「終わ…………る?」
「その前に、決断してくれ」
悠木先生は数字の2を指で作って俺に見せてくる。
「凪波さんの意志を尊重し、彼女自身はもうゆっくり眠らせて……私の雪穂に彼女の体を与えるか」
私の雪穂という言葉に、思いがこもっていることが、悠木先生の声の圧で分かった。
「それとも……ここで私が凪波さんの脳に処置を施して、現状維持を試みるか」
「現状維持……?」
「助けるわけではない。むしろそんな見込みはほぼない。そこにメスを入れたら、雪穂の体としても機能できなくなるかもしれない」
「それはどういう……」
「体を維持するための脳機能すら、私がこのタイミングでメスを入れたら使い物にならなくなり、ただの肉体にしかならなくなる……その可能性が高いということだ」
悠木先生は、ふっとここに来て脱力したような笑みを浮かべた。
そして言った。
「海原君。私はね、こう思ってしまったんだよ。雪穂が死にゆく時にね。この体にもう触れられなくなるのか。街中ですれ違うこともできないのか。この世界に存在しなくなるのか。それがどんなに自分の気を狂わせるのかも……」
俺は、その言葉を自分に置き換えてみた。
凪波の体に触れられない未来。
この世界のどこにもいなくなる未来。
想像して、すぐに思った。
無理だ。耐えられない。
寂しくて悲しくて、どうしようもなくなりそうだ。
気が狂うとは、こういうことか、と俺は思った。
「だが……」
悠木先生は、らしくもなく、俺の手を掴んできた。
「もしも、凪波さんを、雪穂として肉体を生きさせてくれるなら、生きたいと願った雪穂の心も、死にたいと願った凪波さんの体も救われる。どちらも、願いが叶う。私達も、完全に彼女たちを失うことはない」
完全に失わない。
その言葉は、俺の理性を容赦無く奪い去ろうとする。
このまま死という形で凪波の全てを失うくらいなら……。
「どうだい?凪波さんを雪穂として生きさせて、私達の愛する人がいなくなる未来を阻止しないかい?」
悠木先生が俺を誘う声は、とても甘く感じてしまった。
くらりと、酔いそうになった。



