お願い、私を見つけないで 〜誰がお前を孕ませた?/何故君は僕から逃げた?〜

Side朝陽

「さて、どうしたものかな」

悠木先生の囁きは、言葉面だけでは困っていたが、音の響きはとても困っているようには聞こえなかった。
俺は、その呟きに何も答えられなかった。
その理由を聞くことすら、今はもう疲れたと思ってしまったから。

「海原君」

そんな俺に、悠木先生は容赦なく話しかけてくる。
俺は、視線を悠木先生に向けることだけが、限界だった。
でもできるなら、誰とも目を合わせたくないとも思った。
頭が痛くて仕方がなかったから。
それでも悠木先生は、容赦なく声を出し続ける。
俺に聞かせるためなのか、それとも別の目的があるのか。
もう考えることすら、俺の体は拒否を始めていた。

「君は、彼の行動の意味に気づいたかい?」

悠木先生は、凪波がよく見える場所まで歩き、そして凪波の脳部分を見つめた。

「彼はね、私と同じだ。だから私と同じように求めたんだろう。肉体のスペアを」
「スペア……?」
「そうだ。彼女の意識部分だけを別の体に移植し、体は別人だが心は凪波さんのまま。……私が、私の愛する人のためにしていることと、全く同じ方法を選んだんだ」

そうじゃないかと、思ってた。
そうするんじゃないかと、思ってた。
俺も、あの雪穂という存在を見て、聞いて……。
そんなことが本当にできるのならば、凪波こそそうして欲しいと、微かに思ったんだ。
でも……。
何かが違う。
これは違うんだと、俺の理性部分はずっと警告を鳴らし続けていた。
そして今もまた、俺の体全身で訴える。
それは違うんだ。
やってはいけないことなんだ。
でなければ、お前も堕ちるぞ、と。

「本当に彼は、惜しかった。けれど、もうスペアはないからミスは許されないな」

スペア、という悠木先生の言い回しが、ひどく気持ち悪かった。

「これで失敗したら、彼の破滅だけが残るが、まあそんなことはきっと彼は考えてもいないだろうね」
「破滅……だと?」
「君たちはいい大人だ。まさか、自殺教唆という罪があることを、知らないはずはないだろう?しかもこんな堂々と、彼は現行犯になっている。これだけの大騒ぎだ。警察もバカだけがいないわけじゃないからな。バカも多いけれど」

その言葉に、悠木先生からの強い恨みを感じたのは、気のせいだろうか。

「でもまあ、これが、彼が選んだ愛の形だというのなら、私は、今回は身を引いた方がいいのかもしれないな」


悠木先生は少しだけ目を細めて俺を見た。

「それは……」


凪波を助けてくれるということですか?
そう言おうと思った時に、それは起こった。