お願い、私を見つけないで 〜誰がお前を孕ませた?/何故君は僕から逃げた?〜

Side朔夜

凪波への誹謗中傷がTwitter上で広がり始め、僕の心がおかしくなりそうになった時だった。
僕に救いの手が差し伸べられたのは。
カメラに映らない、ちょうど良い角度から、山田さんがある紙を僕に渡してくれていた。
そこに書かれていたのは、僕が出会う前の凪波の経歴の一覧。

どこの養成所にいたのか。
どこの事務所に所属したのか。
そして何故そこを辞めたのか。

凪波が僕に決して教えようとしなかった、凪波のブラックボックスとも言える情報だった。

これの真偽を問いただすということはしない。
これをどうやって手に入れたのかと確認することもしない。
そんなことをしている時間もなければ、余裕もない。
これは真実であり、なんらかの方法で山田という人間の手元にやってきて、そして僕が受け取る。
それをどう生かすか。このタイミングで。
僕が考えるべきことは、これだけ。

すでに舞台の幕は上がっている。
この幕が閉じるために必要なことは、とてもシンプル。
凪波の追い詰めた奴らを引き摺り出す。
僕が凪波を取り戻した時に、2度と彼女に手を出させないことは勿論だ。
だが、それだけでは足りない。


そんなもので、許せるはずはない。
もっと……地獄を見せなくては。
もっと苦しめ。
凪波と僕の苦しみは、こんなものじゃなかったんだから……。





そう思った時だった。
あの……悠木という男が、希代の天才であることを思い出したのは。