お願い、私を見つけないで 〜誰がお前を孕ませた?/何故君は僕から逃げた?〜

Side朝陽

一路は、カメラを回したまま無言でラインを打ち込み始めた。
かつかつと、一路がスマホの液晶を叩く音だけが響く。
もしこれが、普通のテレビ番組だったら誰もがチャンネルを変えていただろう。
動きがなく、シュールで、つまらない画面。
けれど、視聴者数はますます増えている。
そして俺もまた……目を逸らせてはいけない気がした。


LINE画面

<●●>
その人は、畑野さんに復讐したいと、ずっと言っていました

<一路朔夜>
詳しく教えてください

<●●>
私たち、養成所が一緒だったんです。事務所直結のやつ。私たちは次の入所試験に受かれば事務所に入れるクラスで出会いました。

<一路朔夜>
それから?

<●●>
私たちとその人と畑野さんは、よく一緒に演技の勉強をしてました。

<一路朔夜>
それで?

<●●>
よく、事務所の帰りにご飯一緒に食べたり、仲が良かったと思います。

<一路朔夜>
復讐したいというのはどういうことですか

<●●>
私たち、表面的には仲が良かったんですが、やっぱりギスギスしてたんですよね。みんなライバルだし。
それでいつの間にか、蹴落とし合いが始まったんです。
課題の台本隠される人もいたし、卒業公演の衣装破られた人もいたんです。
その犯人が実は畑野さんだったんです。
畑野さんは、自分が声優になることにとてもこだわっていました。
でも畑野さんは事務所が考える注力の生徒には入ってなかった。
だからきっと妬んだんだと思います。

<一路朔夜>
それは本当ですか?

<●●>
はい、本当です。
だから畑野さんは養成所を退所処分になっています。

<一路朔夜>
おかしくないですか。

<●●>


<一路朔夜>
今の話のどこに彼女が復讐される要素があると思うのですか。

<●●>
畑野さんがいじめてた人が復讐したいと思っても不思議じゃないと思うのですが

<一路朔夜>
彼女が退所処分になった時点で、復讐は終わっているのでは。

<●●>
そんなことない。いじめられた方は例えその人がいなくなったとしても忘れられない。
畑野さんはずっと恨まれていないといけないんです。

<一路朔夜>
まるであなたも彼女に復讐したいという口振りですね。