お願い、私を見つけないで 〜誰がお前を孕ませた?/何故君は僕から逃げた?〜

Side朝陽

さっきみたいに電話をしている、というわけではなさそうだった。
一方でコメント欄は、一路の言葉に対して、また暴走を繰り返し始めていた。

なんだよ、必死じゃんwwwww
ざまあwwwwww


ゲラゲラと、必死な一路を笑うようなコメントすら現れた。
それでも一路は、もう1度こう問いかける。

「今から言うメールアドレスに、彼女の本名を送ってください。そうすれば、あなたを本物だと信じます」

俺は、何を言っているか分からなかったので、流れてしまったコメントを再び遡ることにした。
暴力的な言葉に、自分が浴びせられていないのにも関わらず頭が痛くなる。
胸が苦しくなる。
できるなら、逃げ出したい。
でも、ここで逃げ出したら……俺はきっと一生自分を許せなくなりそう。
そんな、よく分からない義務感を
そして1つだけ、これかも……と思える投稿を見つけることは、できた。
凪波と同じ養成所に通っているという人間からだという投稿。
一路が探している、もう1人の声の主を知っているかもしれないという書き込みだった。

これならば、食いつきたくなる気持ちは分かる。
けれど、俺は同時に不安になる。
このコメントを書いた人間は、今Twitterやコメント欄がどんな状況になっているか、知らないはずはないだろう。
それにも関わらず、情報を提供したいと思うだろうか。果たして。
自分の言葉1つで、あっという間にデジタル上で繋がった世界を巻き込んだ騒動が、また1つ増えるかもしれないというのに。
少なくとも俺は、本気だったとはいえ、あの「殺してやりたい」発言をすごく後悔している。
俺の言葉が、あんな大騒動になるなんて、思わなかったから。
誰かに、俺のせいだと気づかれて、もしも責められたとしたら……俺に一路や凪波のように耐えるだけのメンタルがあるなんて、思えない。


だからこそ、この状況を知ってもなお、情報提供したいという人間が現れることの方が、俺はずっと不思議だった。


もしかして、罠なんじゃ……。
止めた方がいいんじゃ?

俺はコメントを書き込むべきか否か、すごく悩んだ。
正義をもし取るなら、書き込んだ方が正解なのかもしれない。
けれど俺は選択して、行動した後の結果が怖い。
先が見えない恐怖。
想定外のことに直面する恐怖。
俺の心にはありとあらゆる種類の恐怖が絡みついている。

ああどうしよう。

そんなことを思っていると、突然生放送の画面が切り替わった。
ラインの画面……だろうか。
一路朔夜の文字が、書かれていた。
そして相手の名前は、●●とだけ書かれている。
相手に、名前の表記をそうするように指示したのだろうか。一路が。
状況がわからないまま、俺は画面上で、リアルタイムで行われているラインでのやり取りを見させられ始めた。



そこに書かれた、最初の一言は、俺を絶句させたが。




「その人は、畑野さんに復讐したいと、ずっと言っていました」