お願い、私を見つけないで 〜誰がお前を孕ませた?/何故君は僕から逃げた?〜

Side朝陽

コメント欄に書かれたアカウントは、宮川のりえ個人が運営しているものだった。
事務所が運営しているのか、それとも自主的にやっているものなのかは、俺は声優業界のことは分からないから区別がつかない。
ただ、見たところ、自撮り写真が比較的多い印象で、一路のTwitterのような、宣伝ばかりのTwitterのアカウントではなかった。
どちらかといえば、宣伝は少ないように思えた。

フォロワーは数百人。
俺からすると多めだが、一路と比べるとだいぶ少ない印象を受けた。
ほとんどの呟きは、いいねが2桁、コメントに至ってはあるかないかのものばかりだったが、1番上の投稿にだけ、妙にコメントやリツイート数が異常な数字を叩き出していた。

俺が見ている、ちょうど今このタイミングでも、次から次へと数字が変わっていく。
特に、リツイートの。
何が起きているのだろうと、その投稿をクリックした瞬間、俺は恐怖を覚えた。


「死ね死ね死ね」
「悪魔」
「ブス」
「人間の屑」
「ここのビッチがいますよ」
「暴行犯wwwwざまあwwwww」

こんな内容ばかりが、次から次へと投稿されていた。
中には

「懺悔しろよ」
「土下座、土下座!!」

と、謝罪を要求する人もいた。
自分が当事者じゃないというのに。
正義の味方を気取っているのだろうか。

まだこれが、コメントの中だけで収まっているならいいけれど、こういった投稿は引用リツイート機能を使われてしまっている。
このリツイートは、1人の人がすれば、その人のフォロワーが目にすることができる。
そのフォロワーの人が興味を持ってリツイートし続ければ、目にしたフォロワー分は拡散されることになる。
例えば300人のフォロワーを持つ人がその投稿をリツイートすれば、300人に広がる。
その300人のうち、2人がリツイートしたとして、その2人がそれぞれ1000人、50人のフォロワーだとすれば300+1000+50の合計1350人の目に触れられてしまう。
そうして、どんどんその内容に興味を持つであろう人の目に触れられる確率が上がる。
そして、それは……その中にいる、何らかの行動を起こす人の目に触れられる確率も同時に上がっていくことと同じだ。

例えば……もしこの中に、殺し屋のような人がいたとしたら?
そういう人がいなかったとしても、何らかの暴力的な行動を起こす人がいたら?



それにもう1つ。
このリツイートは何も宮川のりえの投稿だけがされているわけではなかった。
今、Twitterのトレンドの上位には「一路朔夜」「暴露」「宮川のりえ」というワードがランクインしていく中で、俺には我慢ができないワードがあった。

「畑野実波」


凪波の、声優としての名前。
そして、すでに凪波がいた事務所からは抹消されていた名前。
その名前と同時にTwitterで広まっていたのは、凪波が暴行されていた時の音声。
それだけが、切り取られて世界中に拡散されていた。