Side朔夜

電車から降りた時、冷えた空気で目が覚めた。
この料理を出している店はすでに調べた。
この時間なら、急げばギリギリ間に合うはず。
あとはそこに行って情報を聞き出す。
どんな手を使ってでも。
従業員を懐柔させるくらい、僕にはそう難しいことではない。

少なくとも以前は……今では言葉にするのも躊躇われるような、酷いことをしてきた。
目的のために、頭が軽そうな女に近寄り、仕事でもらう台本で身につけた「甘いセリフ」を囁き、ベッドで鳴かせる。
そうして女たちから情報を聞き出す。

そう言うことを平気でできた。
その時は「愛しい」という感情を知らなかったから。

あの時と同じことができるかと聞かれれば、できるはずがない。
愛する人という極上の肌の味を覚えてしまったから。

だからできるのはせいぜい声と演技で誘導するくらいになるだろうが……そこは、エチュードの応用と考えればいい。

そして、出口に通じる階段を探そうと周囲を見渡す。

すると……


「凪波……?」


反対側のホームのベンチに座っている女がいる。
俯いているから顔がはっきり見えるわけではない。
でも、僕には分かるんだ。

僕は駆け出した。
もしこうしている間に、また凪波が消えていたらどうしよう。
不安で心臓が張り裂けそうだ。
走れ!走れ!走れ!!

どうか間に合ってくれ……!











「見つけたよ……」
ねえ、凪波?
僕がどんな思いでそう言ったと思う?

ねえ、凪波?
「あ、あの……初めまして……ですよね……?」
そう言われて、僕がどう思ったと思う?

いっそ君を殺して僕も一緒に死んでしまえたらとさえ、思ったよ。
でも今、1番にしなくてはいけないのは……。




「てめえ!凪波に何しやがるんだ!」
凪波を奪おうとしている虫けらを、どうやって退治しようか……。