お願い、私を見つけないで 〜誰がお前を孕ませた?/何故君は僕から逃げた?〜

Side朝陽

こんなにコメントが流れていくのが速いんじゃ、俺のコメントなんか読まれもしないと思ってた。
それなのに、一路はピンポイントで俺のコメントだけを拾って、音読しやがった。
単なる偶然だったのか?
それとも……コメントから俺だと気づいたのか?
そんなエスパーみたいなことができたから、あの日……俺たちの地元に現れることができたのだろう。
そう考えれば、少しだけ納得してしまった。

とは言え……俺は、すぐにはわからなかった。
一路はわざわざ、俺のコメントだけを声に出したのか。
けれども、そんな疑問は一瞬にして吹き飛んだ。

「いいぞ!」
「殺せ!殺せ!!」
「復讐復讐」

一斉に「死ね」「殺せ」「晒せ」というコメントで埋め尽くされるようになった。

「な、何だよこれ……」

スマホを持つ俺の手が、震える。
こんなに死を意味する文字を多く目にすることは、俺は経験がない。
例えその言葉が俺に向けられたものじゃなかったとしても、俺の言葉がきっかけで起きたこの出来事を、俺は恐ろしく感じた。
一路は、じーっとまた画面を見つめ始めた。

また、何かを待っているのだろうか。

そう仮説を立てられるくらいには、俺はこの放送の流れを少しは理解し始めていた。
でも、ここまで来ても、一路が何を待っているのかは分からない。
そうこうしている内に、視聴者数はあっという間に増えて、ますますコメント欄は大混乱になっている。
中にはコメントする人間同士で書き争いも始まっていた。

まさか、一路はこれをただ見ているのか?
時々口元が緩むタイミングは、まさにコメント欄の盛り上がりに波が来ているタイミングと一致しているので、そう考えることは容易かった。
もはや、この生放送の主役だったはずの人間が何も語らずとも、コメント欄というエンターテイメントが形成され始めている。

「死を弄ぶなんて」
「一路朔夜こそ死ね」
「死にたい死にたい」

ありとあらゆる死の願望が、流れては消え、消えてはまた流れる。
このまま見ていると、飲み込まれそうな気がして、俺は1度画面から目を逸らした。
すると、目に入ってしまった。
凪波の横たわる姿が。