Side朔夜


「彼女は、誰よりも演技に対して誠実でした。

たった1人で、老若男女を演じ分けた姿を初めて見た時、僕は震えました。

自分が知っている声の演技とは何だったのか。

僕の中にあった、声の演技についての常識があっという間に崩されました。

ただ、声に出すだけで良いと、軽く考えていた僕の鼻っ柱を彼女は折っていったのです。

それから僕は、彼女のことが忘れることはできませんでした。

それは、決して自分のプライドを傷つけられたからではありません。

…………僕は、嬉しかったんです。

彼女と出会い、演技の奥深さを知り、白いキャンパスのような僕の中身が彼女によって彩られていくのが。

あるオーディションがきっかけで、彼女は僕を避けるようになった時もありました。

僕は、その距離が嫌で、ある日僕から彼女を追いかけました。

今まで僕は、追いかけられることばかりで、自分から追いかけるということはありませんでした。

必死に誰かを求めたくなる、湧き上がる気持ちを、僕は初めて経験しました。

それを、恋と呼ぶのだと、初めて知りました。

あんなに必死に、息が切れるほど誰かを追いかけるなんて、もうきっと2度とないと思うほど、全速力で走り、彼女を捕まえました。

最初こそ逃げようとした彼女が、最後には僕のところに来てくれた時は、もう死んでもいいと思うくらい……僕は嬉しかった……本当に……。

ついさっきも見てもらった……みなさんが知っている一路朔夜の演技は全て、その彼女がいなければこの世には存在しませんでした。

彼女は僕にとって、愛する彼女でもあり、共に生活する家族でもあり、そして……演技の教師でもありました。

息遣い、セリフの理解、アクセント、場面の考察……その全ては、時に彼女が呆れたように手取り足取り教えてくれることもありましたし、僕が彼女を観察して盗むこともしました。

……盗む方法を教えてくれたのもまた、彼女でした。

彼女がいなければ、一路朔夜としての僕はいない。

一路朔夜である僕が生み出したキャラクターの声はいない。

つまり……皆さんが知る一路朔夜がこれからも存在し続けるためには、彼女の存在が必要不可欠だったんです。



けれど……僕はそんな彼女を奪われたんです。

もうきっと、一路朔夜としての僕は……死んでしまう。

彼女がいなくなってしまうならば。



何故、こんな話を皆さんに聞かせたのか……そろそろ理由を説明しなければなりませんね。

何度も言いますが、僕は彼女という存在を愛しているし、彼女なしでは一路朔夜にはなれません。

そんな僕が、こんな音声を聞かされたら……どんな行動を取るべきだと、みなさんは思いますか?



皆さんの考えを、ぜひコメントで教えてください」