Side朝陽

彼が……勝つ?
彼って、誰だ?
そいつが、誰に勝つって?
何に……勝つって……?

俺が混乱している間、悠木先生は何かのスイッチを押したのだろう。
凪波の脳だという映像が、再びこの空間に映し出された。
ARの技術を利用していると、言っていた気がする。
けれど俺には何がどうなっているのか、いまいちよく理解できていなかった。
ただ、この映像が本当だとしたら、少しでもこの中に凪波のことがわかるヒントが見つかれば良いのに……という望みを、漠然と抱いていた。

「どうかね?」
「何がですか」

唐突に悠木先生が俺に聞いてきた。

「この映像、先日との違いが分かるかね」

何を言っているんだ、この人は。

「分かりません……けど……」

俺は、医者じゃない。
まして高校時代に生物ですら、大嫌いな科目だった。
そんな俺に聞かれても、まともな答えなんか返ってこないに決まってるじゃないか。
俺の言いたいことを察したのだろうか。
悠木先生がふうっとため息をついた。

「まあ……本当に聞きたいのは、そんなことじゃないんだがな」

じゃあ聞くなよ、と、益々悠木先生に対するイライラが募る。
ふざけるな、と一発殴ってやりたかった。
でも、目の前の凪波の姿が、俺を止めた。
今、どんな形であれ、凪波の命を握っているのは、目の前のこの人なのだから。


「じゃあ……何が聞きたかったと言うんですか」
「君が、探そうとするかだよ」
「何を」
「私の問いかけに対してだよ。私が今ここで聞くと言うことは、凪波さんの状態に関わる何かだとは、一瞬でも思わなかったのかね?」
「なっ……!?」

試されていたというのか……!?
俺の、凪波への気持ちを?
こんな、形で?

「意味が分からないという顔だね。では、教えてあげよう」

悠木先生は、脳の一部らしき部分を指差しながら

「前も話したはずだ。凪波さんはもう、以前の凪波さんには決して戻らない……と」
「…………だから?」
「もしそれを受け入れられないならば……君は今すぐ凪波さんを手放した方がいい……前にもそう言ったはずだが、もう忘れたかね?」
「だから何だって言うんだ!!」

俺は、悠木先生に殴りかかる代わりに、床を思いっきり踏みつけた。

「それが一体何の関係があるんだ!!!!」

俺のその言葉に、悠木先生の目が冷たく細まった。

「私も……今戦ってる彼もね……愛する彼女を自分の元に取り戻すためなら、どんな小さな事にも希望を探そうとするんだ。それが、どんなに闇深い方法だとしても、ね」

悠木先生がそう言った、その直後。
悠木先生が一路を待っていたのか。
もしくは一路が悠木先生のその言葉を待っていたのか。
まるで、向こうもこちらの声を聞いているかのような、ちょうど良いタイミングで、一路はこう発信した。



「僕には、何者にも代えられないほど、強く愛している女性がいます」