Side朝陽

「誰が、どうなっても良い……」

俺も、凪波を取り戻せるなら、一路を苦しめてもいいと思った。
だから一路を追ってここまで来たんだ。
つまり、俺も一路や悠木先生と同じ思考を持っていると考えても良いのではないだろうか。

でも……何故だ?

悠木先生の言葉からは、明らかに俺との壁を作っているようにすら、思う。
この違和感は、なんだ?
何が、俺とこの2人とは違うんだ?

「海原君。移動しないか?」

どこに、と聞く必要はなかった。
俺と悠木先生、2人が行く場所なんて1つしかない。
悠木先生は、俺だけを見て、外へ出るように促す。
俺は、ちらりと下に座り込み、泣き続けている藤岡を見る。
でも、藤岡に一緒に行こうという気には……なれなかった。

俺は、悠木先生の後ろを歩くという形で返事をした。
悠木先生は、満足げに頷きながら、スマホの音量を上げた。
一路が、次々と色々な役を演じている様子をBGMに俺は歩く。

どうして、こんなに違う人に聞こえるのだろう。
本当に、同じ人間の声なのか?
同じ人間の喉から出ているのか?

声優というのがそういう職業だと分かっていたはずなのに。
俺は改めて、一路朔夜という声優の実力を思い知る。
そして……このスキルを誰のために身につけたのかをもう、俺は知っている。

「くそっ……」

一路の声に、俺は凪波の想いを感じてしまう。
凪波の顔が、浮かんでしまう。
それがとても苦しい。