Side朔夜

僕は、闇の世界にいた人間だ。
そういう人間をスカウトするということは、その人間もまた、闇を熟知しているということ。
そんな仕組みくらい、簡単に分かるはずではないだろうか。


……社長は、僕を光の世界に連れ出してくれた恩人でもある。
だから、目を瞑ってやっていたんだ。
でも、社長。
あなたは僕の唯一の良心の源を奪い去った。
あなたが奪い去りさえしなければ、凪波はまだ僕の横にいて、僕を見守っていてくれたかもしれないんだ。
だから僕は、このトリガーを引くことにした。
僕の大事なものを奪った罪の大きさを思い知らせてやるために。


この高級風俗店リストは、社長が全て絡んでいる。
声優、アイドルなどという職業に憧れて養成所にやってきた、世間知らずでルックスだけは良い人間を裏で売り捌き、その利益を享受している。
社長が作った事務所は、この仕組みの隠れ蓑として使われており、表の顔しかしらない人は、単なる儲かっている声優事務所、くらいにしか思わないようにうまいことやりくりされていた。


凪波がこの真実を知っていたのかは、分からない。
けれど、凪波は……僕の過去を正しくは知らなかったはずだ。
僕の汚い部分を見せたくはなかったから。
そして社長も、僕という商品価値を考え、過去はトップシークレット扱いにすると僕自身に釘を刺したほどだったから。

だからきっと、このリストを見ても、本当の意味には気づかなかったのだろう。
何故社長が、そんなものを持っているのか、を。

「一路!やめなさい!あなた、これまで築いてきたものすべて失うつもりなの!?」
「だから、言いましたよね。僕には、これ以上失うものはないんですよ」

凪波を失うこと以上には。


「みなさん。僕が所属している事務所の裏の顔をご存知ですか?実は今のリストは……」
「やめろ!一路!誰か!今すぐ一路を見つけなさい!!!」

もう遅い。
気づいた頃には全て失ってしまう。
その気持ちを、味わって懺悔しろ。




そうして。
僕からの1つ目の暴露が終わった頃には、すでに視聴者数は20万人を突破していた。