Side朔夜

山田さんからスマホを受け取る。
その様子は、もうすでに放送に乗っている。
コメントには

「何?生電話?」
「これはあれですか、暴露大会ですねわかります」
「盛り上がって参りましたー!!」

と、僕が仕掛けた祭りの炎に酸素をくべるようなコメントが次から次へと投稿されている。

まだまだ、本番はこれからだよ。
もっと燃え上がれ。

祈りをこめながら、僕は通話ボタンを押すと同時にスピーカーにする。

「一路!あんた一体何してるの!!?」

僕は、あまりにも予想通りすぎるターゲットの反応に笑いを堪えるので精一杯だった。

「一路何してるの!!生放送なんて許さないわよ!すぐにやめなさい」
「あー見てくれたんですね、社長、嬉しいです」

心にもない言葉がすらすら出てくる。
これは、凪波に出会うずっと前に、闇の中で身につけた僕が生きるための処世術。
あんな場所で身につけてしまった嘘をつくスキルなど、最初はクソほどの価値も感じなかったけれど、今はむしろ、神から与えられた恩恵だとすら思える。

「え?社長?」
「一路朔夜の事務所のってこと!?」
「マジか。もしかして、反逆?」
「パワハラにでもあってたのか?」

コメントの中に、パワハラの言葉があった。
つい思わず

「いい線いってる視聴者さんもいますね」

と声に出してしまった。

「馬鹿なこと言ってないで!!早くやめなさい!あなたのイメージに傷がつくのよ!」

金切り声で、僕のためと言いたげな必死な嘘に、僕は笑いが込み上げてきそうだった。

「違いますよね」
「何言ってるの!?」
「僕のイメージなんか、こんなことで崩れたりはしない」

そもそも、僕には守りたいイメージなんてこれっぽちもない。
凪波があまりにも僕のイメージを創ることに必死だったから、僕は凪波のためにそのイメージのフリをしただけだ。
僕のイメージに、事務所の……社長の意思なんか、入っているはずがない。
入っていてたまるか。

「社長、あなたが困るのは……あなたの裏稼業がバレて警察に捕まることだ。そうでしょう?」