Side朔夜

視聴者は増えていく。

81000人。
82000人。
82500人。

視聴者の増え方が、また緩やかになった。
きっとまだ、足りないのだろう。
僕の秘密を1つだけ暴露するだけでは。
彼らが燃えてくれるための燃料として。

どうしようか……。

何を投下すれば、彼らは勝手に祭り状態になってくれるかな。
そんなことを考えながら、適当に書き込まれたコメントに相槌を打っている時だった。
カメラの死角にいる山田さんから、合図が来た。
事務所の社長から僕のスマホに連絡がきた、という内容。

随分、騒動に気付くのが早かったな……。

僕の考えでは、もう少し遅くてもいいとは思っていたけれど。
でも事務所が、僕に関するありとあらゆることに目を光らせていたのも知っていたから、これは許容範囲レベルの誤差にすぎない。

「では皆さん……10万人視聴者になる前に……手始めにちょっと面白い暴露話をしましょうか」

僕はそう言うと、かつて押し付けられたあの書類の束をカメラの前に見せた。

「何だ?」
「面白そうだな」
「暴露か?」
「犯罪でもしてるのか?」

モンスター予備軍が、次々とコメント上に姿を現し始めた。
僕は、緩みそうになる口元を必死で抑えながら、まるで世界の崩壊を予告するかのような口調で、既に頭の中で作り込んでいた台本を演じた。



「これは、僕の事務所の社長がくれた、風俗店のリストです」



この一言を言った瞬間。

「暴露きた!!」
「声優界のプリンスが風俗通い暴露か!?」

一気にコメントが書き込まれる速度が増え、それからすぐ視聴者数が89990まで伸びた。
まだまだ、こんなものは序の口。
僕のなんて、恥にすら入らない。




まずは、凪波と僕を引き剥がそうとした事務所を徹底的に潰す。
そのための材料ならば、僕の手元に残っている。