Side朔夜

まずは、たわいもない話から始めながら視聴数とチャット欄を確認する。
まだ、せいぜい数名程度。
チャット欄にも

「え?一路朔夜?」
「本物?」
「別垢じゃない?」

と、ポツポツ僕を疑う書き込みが流れた。
予想通りの反応だった。


確かに、僕個人のYouTubeアカウントは持っている。
だがそれは、僕のものであり、僕のものではない。
事務所が管理しているアカウントだ。
かつて凪波が管理をしていたアカウントで、今は別の人間の手によって運営されている。
すでに登録者は100万人は超えている。
この計画をやるのであれば、本来ならあのアカウントを使う方が良かったのかもしれない。

でも、ダメなのだ、それでは。
この計画をするには、あのアカウントでは意味がない。

僕は、淡々と話を進めるのも疲れたので、リクエストを求めてみた。
まだみんな、僕が本物であることを疑っている。
最近はレベルが高いモノマネ芸人がYouTubeをやっていることもあるからだろう。

だから、僕が一路朔夜であることを証明するには、モノマネなんかではできない僕だけの声を発信する必要があると思ったから。

まずは、このアカウントが僕本人であると認めさせる。
そこから、次の作戦が始まる。

「みんなのリクエストに、なんでも答えるよ」

その言葉に、1人が反応した。
僕が、初めて世の中に認められた、アニメの主役。
凪波と結ばれるきっかけになった役だった。