Side朔夜

その望みというのは、一体誰の望みのことなのだろう。

山田さんは僕の執事ではない。
悠木の執事だ。
凪波の、明日の命を握っている男のための傀儡。
だとしても、僕はその傀儡すら利用してでも、成し遂げたいことがある。
いや、成し遂げなければならない。

僕の今は、凪波がいなければなかった。
凪波がいないのに、今更名声がなんだ。
僕の命も、人生も彼女に捧げると決めた。

これが、僕の愛し方だよ。
海原。
僕は、凪波のためなら、何度だって破滅したって構わない。


「山田さん。お願いします」
「承知いたしました」

僕は、いつも収録前にするように、軽く深呼吸をする。
声を整える。
少しでも多くの人間に届くように。
それは、どんな時でも変わらない。


「カメラ、回しました。どうぞ話して下さい」

僕は、小さく頷く。
そして、目を瞑り、脳内にイメージを作る。
自分がこれから、何のために声を出すのかを。
言葉を紡ぐのかを。

そして、目を開ける。

「みなさんこんにちは。一路朔夜です。今日は突然ですが、みなさんに伝えたいことがあり、生配信をすることにしました」


今の僕は、一路朔夜という名前の声優ではない。
凪波のためだけの復讐ショーを創り出す、プロデューサー兼出演者だ。


さあ。凪波。
僕と一緒に、復讐をしよう。
そして、もう1度この部屋に戻っておいで。