Side朔夜
……だから業界の人間については、一度保留にした。
そこは興信所に任せよう。
そして次の手がかりを探すために、一度、「実鳥」がフォローするアカウント、フォロワーのアカウントを眺める。
このアカウントをフォローする人の状況や気持ちを考えて、自分も「そう」振る舞えるように。
大体は女性の、それもシングルマザーの立場だとプロフィールで書いてある。
ここで推測できることは、実鳥という人物がシングルマザーではないかということ。
つまり、自分も母親という立場になりきってコメントを書くことで、共感を得られ、相手の心を開くことができるのではないか……という仮説を作ることができる。
これも、凪波が教えてくれたテクニックだ。
僕は、適当な写真を1つピックアップして、コメントを残してみた。
すると、「実鳥」からお礼のコメントが届く。
もう1度、コメントを残す。
またお礼のコメントが届く。
僕はそれを、仕事の隙間時間にただ繰り返した。
その結果、実鳥から直接ダイレクトメールをもらうことに成功する。
「同じ母親同士として、仲良くなりましょう」
と。
……これで、1つクリア。
もう1つ気になるアカウントがある。
りんごの写真がアイコンになっている「海原りんご園」というTwitterアカウント。
そのりんご園は、凪波の故郷にあるものだ。
そして、そこが出した、若い女性に人気のりんごの名前が「凪」。
……偶然にしては出来過ぎだと思った僕は、海原りんご園のWEBサイトを見る。
「海原……朝陽……」
社長紹介のページで見たその男の出身校は、凪波が教えてくれた学校名と一致している。歳も凪波と同じ。
……気に食わない。
何かの確証があったわけではない。
ただ、凪波の家の近くにあり、凪波と同じ学校でしかも同い年。
……関係があると考える方が自然だ。
監視の意味でそのアカウントもフォローをした。
ただ、こちらは一向に個人が見えるような投稿はされない。
自然と「凪」を買いたくなるように、美味しそうな料理を作る様子や、りんご狩りの様子が更新されていた。
流石に動画まで見るゆとりはないので、適当に流し見しようと思ったところ、急に音声が流れた。
それは、地元のテレビ局からのインタビュー取材を受けた時の映像で、海原朝陽がこわばった笑顔をしている。
きちんと発声練習をしていないようなアナウンサーが尋ねる。
「では、海原社長が作った凪の、お名前の由来についてお聞きしても良いですか?」
「えー……やっぱり話さないとダメですかね……」
「凪という漢字の意味と、りんごがなぜ繋がるのか……きっと不思議に思ってる方もいらっしゃると思いますよ」
「そこまで気にする人いますかねぇ……」
「ええ!それこそ、社長の女性ファンは、凪という名前の方が社長の……奥様ではないかと……考える方もいらっしゃるみたいで」
「ははは。奥さんですか。そういう人はまだ私にはいませんよ……」
「女性の皆さん聞きましたか!海原社長に、まだ特定のお相手はいないみたいです!」
そうアナウンサーが言ったところで
「いえいえ違うんですよー!」
と見知った姿の女性が現れた。
実鳥だ。
なぜ彼女がここに?
「聞いてくださいよー実は、社長にはずーっと片想いしている幼馴染がいるんですよ」
「おい、待てよ!」
「で、その幼馴染に、どうしても自分が作ったりんごを食べて欲しくて、名前までつけちゃったんですよ!」
「まあ!そうなんですか?」
「そうなんですー。うちの社長、可愛いところがあるでしょう?」
そう言うと、実鳥が画面に向かって
「凪波ー!!!うまーいりんごあるからねーいつでも連絡してきてね!」
そこで動画が途切れた。
……間違いない。
ここは、凪波に関係する場所だ。
ここに行けば、凪波の痕跡が分かるかもしれない。
スケジュール帳を開く。
収録、収録、ラジオ、雑誌の撮影……。
なかなか、まとまった休みが取れない。
どこか、どこかないか……。
凪波がマネージャーだった時は、少なくとも週に1回は休めるように調整してくれていた。
でも、今のマネージャーになってからは「売り込めるときにはガンガン仕事を入れる」と言うスタンスで、せいぜい半日休めるかどうか。
……半日休める日程まで、だいぶ先だ……。
くそっ!
……まあいい。
ここだけが本命ではない。
他にもいろいろ探せる場所はある。
様子だけ見ておけばいい……。
そう思っていたのが僕の最大の間違いだと気付いたのは、それからだいぶ後。
夕方以降、半日程休めて、凪波の故郷に向かえると思った日が近づいた頃。
「なんだこれ……」
実鳥のInstagramに一枚の写真がアップロードされた。
投稿は「幼馴染の結婚準備中」とあった。
その背中は、僕が何度も繰り返し抱いてきた凪波のライン。
うなじと髪の毛、耳が少し見えるくらいの写真だったが、間違いない。
何故、凪波が結婚の準備をしている?
僕は、急いで実鳥に向けてダイレクトメッセージを送った。
……だから業界の人間については、一度保留にした。
そこは興信所に任せよう。
そして次の手がかりを探すために、一度、「実鳥」がフォローするアカウント、フォロワーのアカウントを眺める。
このアカウントをフォローする人の状況や気持ちを考えて、自分も「そう」振る舞えるように。
大体は女性の、それもシングルマザーの立場だとプロフィールで書いてある。
ここで推測できることは、実鳥という人物がシングルマザーではないかということ。
つまり、自分も母親という立場になりきってコメントを書くことで、共感を得られ、相手の心を開くことができるのではないか……という仮説を作ることができる。
これも、凪波が教えてくれたテクニックだ。
僕は、適当な写真を1つピックアップして、コメントを残してみた。
すると、「実鳥」からお礼のコメントが届く。
もう1度、コメントを残す。
またお礼のコメントが届く。
僕はそれを、仕事の隙間時間にただ繰り返した。
その結果、実鳥から直接ダイレクトメールをもらうことに成功する。
「同じ母親同士として、仲良くなりましょう」
と。
……これで、1つクリア。
もう1つ気になるアカウントがある。
りんごの写真がアイコンになっている「海原りんご園」というTwitterアカウント。
そのりんご園は、凪波の故郷にあるものだ。
そして、そこが出した、若い女性に人気のりんごの名前が「凪」。
……偶然にしては出来過ぎだと思った僕は、海原りんご園のWEBサイトを見る。
「海原……朝陽……」
社長紹介のページで見たその男の出身校は、凪波が教えてくれた学校名と一致している。歳も凪波と同じ。
……気に食わない。
何かの確証があったわけではない。
ただ、凪波の家の近くにあり、凪波と同じ学校でしかも同い年。
……関係があると考える方が自然だ。
監視の意味でそのアカウントもフォローをした。
ただ、こちらは一向に個人が見えるような投稿はされない。
自然と「凪」を買いたくなるように、美味しそうな料理を作る様子や、りんご狩りの様子が更新されていた。
流石に動画まで見るゆとりはないので、適当に流し見しようと思ったところ、急に音声が流れた。
それは、地元のテレビ局からのインタビュー取材を受けた時の映像で、海原朝陽がこわばった笑顔をしている。
きちんと発声練習をしていないようなアナウンサーが尋ねる。
「では、海原社長が作った凪の、お名前の由来についてお聞きしても良いですか?」
「えー……やっぱり話さないとダメですかね……」
「凪という漢字の意味と、りんごがなぜ繋がるのか……きっと不思議に思ってる方もいらっしゃると思いますよ」
「そこまで気にする人いますかねぇ……」
「ええ!それこそ、社長の女性ファンは、凪という名前の方が社長の……奥様ではないかと……考える方もいらっしゃるみたいで」
「ははは。奥さんですか。そういう人はまだ私にはいませんよ……」
「女性の皆さん聞きましたか!海原社長に、まだ特定のお相手はいないみたいです!」
そうアナウンサーが言ったところで
「いえいえ違うんですよー!」
と見知った姿の女性が現れた。
実鳥だ。
なぜ彼女がここに?
「聞いてくださいよー実は、社長にはずーっと片想いしている幼馴染がいるんですよ」
「おい、待てよ!」
「で、その幼馴染に、どうしても自分が作ったりんごを食べて欲しくて、名前までつけちゃったんですよ!」
「まあ!そうなんですか?」
「そうなんですー。うちの社長、可愛いところがあるでしょう?」
そう言うと、実鳥が画面に向かって
「凪波ー!!!うまーいりんごあるからねーいつでも連絡してきてね!」
そこで動画が途切れた。
……間違いない。
ここは、凪波に関係する場所だ。
ここに行けば、凪波の痕跡が分かるかもしれない。
スケジュール帳を開く。
収録、収録、ラジオ、雑誌の撮影……。
なかなか、まとまった休みが取れない。
どこか、どこかないか……。
凪波がマネージャーだった時は、少なくとも週に1回は休めるように調整してくれていた。
でも、今のマネージャーになってからは「売り込めるときにはガンガン仕事を入れる」と言うスタンスで、せいぜい半日休めるかどうか。
……半日休める日程まで、だいぶ先だ……。
くそっ!
……まあいい。
ここだけが本命ではない。
他にもいろいろ探せる場所はある。
様子だけ見ておけばいい……。
そう思っていたのが僕の最大の間違いだと気付いたのは、それからだいぶ後。
夕方以降、半日程休めて、凪波の故郷に向かえると思った日が近づいた頃。
「なんだこれ……」
実鳥のInstagramに一枚の写真がアップロードされた。
投稿は「幼馴染の結婚準備中」とあった。
その背中は、僕が何度も繰り返し抱いてきた凪波のライン。
うなじと髪の毛、耳が少し見えるくらいの写真だったが、間違いない。
何故、凪波が結婚の準備をしている?
僕は、急いで実鳥に向けてダイレクトメッセージを送った。