Side朔夜

「彼とは……誰のことか聞いてもいいかい?」
「言えません」
「何故?」
「あの人に迷惑をかけたくはないんです」
「だから、死にたいと?」

少しの間、無言の時が続いた。
それから

「死なないと、私はあの人を守れない……」

凪波はそう言いながら、嗚咽を漏らした。
そんな泣き方を凪波がするなんて、僕は知らなかった。
一体何が、君をそうさせるのか。
心当たりがない自分に、イライラが募っていく。

君は、誰のために泣いているの?
君を泣かせているのは誰?
すでに録音をしてある音声だと、分かっていた。
けれども問いかけずにはいられない。

「君を泣かせているのは誰?」

と。
でも、僕の声に凪波は反応してはくれない。
虚しく、車内に響くだけ。
僕は、その声に、感情に干渉すらできない。

その時、ぷつりと音声が途切れた。

「この音声は、悠木様のカウンセリングを録音したものです。本来なら、誰かに聞かせていいものではありませんでした」

山田さんが、音を止めていた。

「大変申し訳ございません。私のミスです。今のはお忘れいただければと……」
「忘れろ、だと?」

僕は、無意識に山田さんの襟元を掴んでいた。

「忘れられるはず、ないだろう!?」