Side朔夜

不規則な振動が、僕を目覚めさせた。

「お目覚めでございますか、一路様」
「ここは……」

どうも、車の中にいるようだった。
後部座席に寝かされていた。

僕は、記憶の糸を手繰り寄せながら、自分の状況を必死に理解する努力をした。
先ほどまでは、確かにあの屋敷で、悠木と話をしていたはずだったのに……。


……そうだ！

「凪波は！？」

勢いよく体を起こすと、頭に激しい痛みが走った。

「くっ……」
「一路様、あまり激しい動きをしてはなりません」

車の中にいたのは、運転をしている人間と僕だけ。
確か……この男は……。

「山田さん……？」
「はい。山田でございます」
「僕を、どこに連れて行くつもりですか？」
「一路様は今日この後、収録のお仕事があるとお聞きしておりましたので……」
「今、僕は仕事をしている場合なのか？」

違うだろ？
仕事なんか……凪波の命に比べたら……何の価値もないじゃないか。

「戻せ、今すぐ。僕を凪波の元へ」
「いけません」
「戻してくれ！」

僕は、後ろから無理やりハンドルを奪おうとした。
時間を見ると、すでに2時間経っていた。
今戻らないと、もう僕は今度こそ2度と、凪波を取り戻せないかもしれないと思った。

「一路様！いけません！」

山田さんは急ブレーキをかけたことで、僕はバランスを崩した。
その瞬間、何かのボタンに触ってしまったらしい。
車の中に、ゆったりとしたクラシックが流れた。
ラジオか何かだろうか。
そう思っている時だった。


「では、凪波さん。次の質問に答えてください」
「分かりました」


悠木と、凪波の声が車のスピーカーから流れてきた。