Side朝陽

「決定的に足りないもの……」

分からない。
確かに俺は、自分が知らない藤岡の顔を見て、動揺はした。
でも、だから何だというんだ。
知らないから否定した。
でも、否定したいからしたわけではない。
そうするしかできなかっただけだ。

凪波にも、藤岡にも、俺が見ていなかった面があるのだと分かった。
でもそれだけだ。
知らないなら、知ればいいじゃないか。
受け入れる努力をすればいいじゃないか。

少なくとも、俺はそうしたいと思っている。
それなのに、この人は俺の意志を否定する。
世間知らずだと、嘲笑う。

「そうやって人の事を馬鹿にして、楽しいか?先生」
「馬鹿にはしていない」
「してるじゃないか」
「私は、事実と感想を述べただけだ。それを馬鹿にしてる、とネガティブに捉えるということは……自分の中にも心当たりがある……ということじゃないのか?」
「違う!俺は」
「違わない。人は、普段から何気なく考えている言葉以外は、切羽詰まったタイミングでは出てこないものだよ、海原君」

そう言いながら、悠木先生は急にスマホをいじり始めた。

「人が真面目な話してんのに、やっぱり馬鹿にしてるじゃないか!!先生!!」

腹の底に溜まっていた怒りを、鉄球にしてぶん投げることができたらどんなにいいだろう。
そう俺が考えた時、悠木先生が俺の目の前にスマホの画面を見せつけてきた。


「これを見たまえ」


音量を上げながら、悠木先生が俺に命令をしたその時、見知った顔が液晶の中に現れた。


「一路…………?」


悠木先生が見せてきたのは、YouTubeのライブ配信の画面。
アカウント名に、一路朔夜の文字が書かれており、画面では先ほど別れたばかりの一路の姿がはっきり映っていた。