Side朔夜

本当は、凪波に
「業界のみんなにも、君を彼女として紹介したい。同意してくれないか?」
と何度も確認をした。
……彼女は1度も、うなずいてはくれなかった。

「そんな話が、万が一ファンに漏れてしまったらどうするの?」
「ファンなんか関係ない。僕は、ちゃんと仕事をしている」
「あなたが仕事があるのは、ファンのおかげでしょう?」
凪波は理路整然と痛いところをついてくる。

さらに続けて凪波はこう言った。
「……フリーだと思わせておくことこそ、夢を売ることができるのよ」
と。
「そんなことで見せる夢に意味はあるの?」
僕が
「君を隠さないといけないような仕事をしているつもりはない」
と反論をしても、すかさず凪波が
「少なくともあなたが大金をもらってる仕事のほとんどは、そういう夢に支払っている」
と言ってくる。さらに重ねて

「その人たちがあなたに夢を見たおかげで、あなたは一人の男として、食べていけるの」

とも言った。
このやりとりをした後、僕は思った。
本当なら彼女の方がプロの声優としての資質を持っているのではないかと。

「凪波?もう1度、声優の世界に戻らないのか?」
と聞いた。
凪波は、悲しそうに首を横に降った。
「私はもういいの。今度はあなたの夢や、あなたの声で夢を見たいと考える全ての人のサポートがしたい」

そんなふうに言っていたから、僕はそんな彼女がいれば、どんな困難な海原でも乗り越えていけると思った。

彼女が舵を取り、僕がその船を演出する。
良いパートナーであり運命の人。
彼女がいるから、僕は今こうして声優の仕事で成功をしている。

一路朔夜という声優は、凪波……僕の最愛の人と一緒に作った共同制作なんだ。

だからこそ、僕等の関係は秘密にすることを了承することに納得せざるをえなかった。
それに、もしこの凪波の力を知ったら、他の男が狙ってくるかもしれない……。

……僕から凪波を盗むなんて、ありえないことだ。
絶対に。