Side悠木


海原君、ありがとう。

君のおかげで、私は君を説得する方法を思いついたよ。

……そうだ。

君は、たった今の発言をとても後悔しているようだが、私はまさに神からの贈り物のようにすら思えたよ。

海原君。

凪波さんと実鳥さんという2人の女性は、君が知らないペルソナを持っていることが分かっただろう。

海原君がこうあるべきだ、これが絶対だと考えていた2人の像が今大きく崩れた。

そうだろう?

それで、君は言ったんだ。

こいつは違う、と。

でも、それは君の視点で見ている2人とは違うだけだ。

凪波さんも実鳥さんも、君が認めたくないような側面を持っている。

それすらも、彼女たちが持つペルソナだ。

彼女たちの一部だ。

それなのに、君はたった今……そのペルソナを否定した。

切り捨てようとした。



それが、君……海原朝陽という人間の本質だ。

自分の価値観から少しでもずれているものを認めることが、できないんだ。

何故か教えてあげよう。



君は、ずっと光の側面しか知らないからだ。

朝陽という……とても強い光の名前を与えられ、光の下を歩くのに決して躊躇うことがない人生を君は歩むことができた。

君はとても真っ直ぐに育つことができた。

それは、とてもとても運が良いことだ。

今の自分のまま、何も変えることなく、思ったことのほとんどが叶う……誰もが羨む普通の人生を君は歩むことができた。

だから、君は決して分かり合うことはできない。



こうして、子供を奪われて泣き叫ぶ実鳥さんのことも。

夢のために体を売り、自我を捨て、命を捨てようとした凪波さんのことも。



そして……。



おっと、すまない。

連絡が来てしまった。



どうやら……あちらの準備もできたようだね。

時間もないから、改めて言おう。

君に、凪波さんを助けるのは無理だ。

万が一……そう……万が一にも彼女がここに戻ってきたとしても、君に受け止めることは無理だ。

君には、決定的に足りないものがあるからね。




もう君は……凪波さんを君の人生から切り捨てるしかできないんだ。