Side実鳥
「正しいって、どういう意味?」
命に、正しいなんて概念が存在するのか?
存在するべきなのか?
存在してもいいのか?
私には、悠木先生が言わんとしていることが、まるで理解できない。
「そうだな……強いて言うなら……」
悠木先生はそう言うと、私の腕を掴んだ。
「来なさい」
そう言って、悠木先生が私を連れてきたのは、まるで工場のような場所。
中央に、蝶の蛹、もしくは蝉の蛹にも見える、機械らしきものが置かれている。
その近くにはモニターが置かれており、映っていたのは……。
「よ、葉!?」
歩美さんが、泣きじゃくる葉を必死に宥めようと、お菓子をあげたり、車のおもちゃであやしている。
あの車のおもちゃは、YouTubeを見ていた葉にねだられたが、高すぎてとても私の手持ちでは買えずに諦めたものだった。
「葉!!葉!!!」
私は、モニターをつかんで揺さぶってしまった。
その中に、葉達がいるわけでもないのに。
「2人は、ここではない別のところにいるよ。ちょっと葉くんの様子がおかしいようだね」
悠木先生はそう言うと、スマホを取り出して何かを操作していた。
悠木先生がそれを耳に当てた瞬間、モニターの中から呼び出し音が聞こえた。
間違いない。
歩美さんに、悠木先生は電話をしている。
「貸して!!!」
私は、悠木先生からスマホを奪い、歩美さんに言ってやりたかった。
葉は、私の息子なのだ。
私がちゃんと丁寧に育ててきたのだ。
それを、何も知らないのに横取りなんてしないで、と。
けれど、私が伸ばした手を、悠木先生はするりとかわしてから
「あれをつけたまえ」
と指示をしていた。
「葉に何をする気!?」
私がどうにか悠木先生からスマホを奪い取った時、すでに通話は切れ、ロックされた画面になっていた。
「葉くんはどうも興奮をしているようだからね。ゆっくりと眠らせてあげようと思って、ね」
そう、悠木先生が言ったタイミングで、葉の頭に歩美さんが何かを被せた。
「やめて!変なことしないで!!」
「ただ眠らせるだけだ」
葉は顔をすっぽり覆うような、たこのようなヘルメットを付けさせられたかと思うと、歩美さんの腕の中にぐったり倒れた。
「葉!!目を覚まして!!葉!!!」
「先ほどから言っているだろう、そんなことをしても無駄だと。それよりも、君に会ってもらいたい人がいてね。こちらに注目してくれないか?」
悠木先生は、私からスマホをあっという間に奪い返し、また何かフリック入力をしていた。
それからすぐ、蛹がゆっくり開いたかと思うと……。
「何……これ……」
「僕の愛する人、雪穂と言うんだ」
それは、かつて子供の頃に見ていたSFアニメの人造人間よりもずっとグロテスクだと思った。
かすかに少女だった名残は残ってはいるが、ただそれだけ。
明らかに、生きていない、はずだ。
「実鳥さん。さっき、あなたは正しさとは何かと聞いたね?」
「まさか……」
悠木先生は、開いた蛹を愛おしげに撫でながら
「少なくとも、私の雪穂は、君たちよりずっと、生きるにふさわしい人物だ」
と言い放った。
「正しいって、どういう意味?」
命に、正しいなんて概念が存在するのか?
存在するべきなのか?
存在してもいいのか?
私には、悠木先生が言わんとしていることが、まるで理解できない。
「そうだな……強いて言うなら……」
悠木先生はそう言うと、私の腕を掴んだ。
「来なさい」
そう言って、悠木先生が私を連れてきたのは、まるで工場のような場所。
中央に、蝶の蛹、もしくは蝉の蛹にも見える、機械らしきものが置かれている。
その近くにはモニターが置かれており、映っていたのは……。
「よ、葉!?」
歩美さんが、泣きじゃくる葉を必死に宥めようと、お菓子をあげたり、車のおもちゃであやしている。
あの車のおもちゃは、YouTubeを見ていた葉にねだられたが、高すぎてとても私の手持ちでは買えずに諦めたものだった。
「葉!!葉!!!」
私は、モニターをつかんで揺さぶってしまった。
その中に、葉達がいるわけでもないのに。
「2人は、ここではない別のところにいるよ。ちょっと葉くんの様子がおかしいようだね」
悠木先生はそう言うと、スマホを取り出して何かを操作していた。
悠木先生がそれを耳に当てた瞬間、モニターの中から呼び出し音が聞こえた。
間違いない。
歩美さんに、悠木先生は電話をしている。
「貸して!!!」
私は、悠木先生からスマホを奪い、歩美さんに言ってやりたかった。
葉は、私の息子なのだ。
私がちゃんと丁寧に育ててきたのだ。
それを、何も知らないのに横取りなんてしないで、と。
けれど、私が伸ばした手を、悠木先生はするりとかわしてから
「あれをつけたまえ」
と指示をしていた。
「葉に何をする気!?」
私がどうにか悠木先生からスマホを奪い取った時、すでに通話は切れ、ロックされた画面になっていた。
「葉くんはどうも興奮をしているようだからね。ゆっくりと眠らせてあげようと思って、ね」
そう、悠木先生が言ったタイミングで、葉の頭に歩美さんが何かを被せた。
「やめて!変なことしないで!!」
「ただ眠らせるだけだ」
葉は顔をすっぽり覆うような、たこのようなヘルメットを付けさせられたかと思うと、歩美さんの腕の中にぐったり倒れた。
「葉!!目を覚まして!!葉!!!」
「先ほどから言っているだろう、そんなことをしても無駄だと。それよりも、君に会ってもらいたい人がいてね。こちらに注目してくれないか?」
悠木先生は、私からスマホをあっという間に奪い返し、また何かフリック入力をしていた。
それからすぐ、蛹がゆっくり開いたかと思うと……。
「何……これ……」
「僕の愛する人、雪穂と言うんだ」
それは、かつて子供の頃に見ていたSFアニメの人造人間よりもずっとグロテスクだと思った。
かすかに少女だった名残は残ってはいるが、ただそれだけ。
明らかに、生きていない、はずだ。
「実鳥さん。さっき、あなたは正しさとは何かと聞いたね?」
「まさか……」
悠木先生は、開いた蛹を愛おしげに撫でながら
「少なくとも、私の雪穂は、君たちよりずっと、生きるにふさわしい人物だ」
と言い放った。