Side悠木


時間の猶予はない。

このままでは、せっかくの機会が全て無駄になる。

もしも、あの体が使い物にならなくなったならば。

私は、すでに次の方法を決めているがね。

そう。君の息子……葉くんだ。

私はね、私の計画を全うできるのであれば、正直どちらでも……いや、誰でも、構わなかった。

葉くんでなくてもいいし、なんだったら実鳥さん、君でも良かった。


私たちに必要だったのは、身体だ。

生きたいと、生き続けたいと願った人間が手にするべき、生きるための身体。


自分の身体なんだから、自分の意思で終わりにしたい。


そんなセリフを、私は医師になってうんざりする程聞いた。

冗談じゃない。

身体は宝だ。

身体がなくては、体温を交えることも、言葉を交わすこともできやしない。

世の中にはね、健康な身体が、どうしようもなく欲しくても手に入らない人もたくさんいる。

一方で、恵まれた……どこへでも行ける……何だって取り組める身体を持ちながら、それを自ら捨てるような生き方をしている人もいる。


実鳥さん。

もし、そういう身体が、本当に身体を望む人のところに還ったら、世の中どう思う?

生きるべき人が生きて、死ぬべき人が死ぬ。

どちらの望みも、叶う世界だ。

身体は、有限だ。

その有限な資源を、使いたい人が丁寧に使い切る。

そうして、使い切った身体を労わるように土に還す。

これこそが、正しい命の使い方だと……思わないかね?