Side実鳥

私は、無意識にノートをめくろうと思ったがすぐ止めた。

開いてはダメだ。

急にそんな気持ちなったから。
でも、何故かはすぐには分からなかった。

「見ないのかい?」
「……持ち主の許可なく、人のノートを見るような人間では、私はありません」
「見た方がいいと思うが?」

私は、もう1度手元のノートを見る。
すでに、悠木先生によって開かれていた見開きのページには、たくさんの死にたいの文字。
所々、ページに穴や破れもある。
きっと、力任せに書いてしまったからだろう。
葉の力任せのお絵かきの紙も、同じような状態にいつもなる。

もっと書きたいものがあるのに、うまく書けない。伝わらない。

そんなフラストレーションを、たった2Pの見開きから感じ取ってしまった。
そのたった2Pが、かつての私の記憶を呼び覚ます。
死ぬことを追い求めていた日々を。

開いてはいけない。
開くことは、凪波の隠していた秘密を暴くことになるだろう。
死にたいと願うまでに至った、心の葛藤を、真実を、私ならば誰にも知られたくない。
触れられたくない。
もしバレてしまえば、恥ずかしさで舌を噛み切りたくなる。

凪波も、きっとそうだろう。
ノートに書き殴ったのは、そうしなければいけないほど、心だけに秘めることが難しかったからかもしれない。
でも、ノートに残すことと、誰かがそのノートを見ることはまるで意味が違う。

これは、凪波のトップシークレット。
裸を見るよりもずっと、恥ずかしいと思わなくてはいけないもの。
分かっている。
私は誰よりも、分かっているはずではないか。
これは、見てはいけない。
なかったことにしなくては。

でも、私は、やっぱり弱かったのだろう。
ダメな女だったのだろう。
だから、屈してしまった。

悠木先生の、次の言葉によって。