Side実鳥

私の叫びは、再び悠木先生の目を変えた。
自分の常識からかけ離れた人間を、異星人のように扱う、排除の目を、私に向けている。

「理解できないな」
「……何がですか……」

悠木先生はそう言うと、私の顔の前にスマホの画面を見せる。
裸のお腹に、大きな紫色のあざ。
裸の持ち主の服には、見覚えがある。
つい1週間前、子供向けの安い服を売っている量販店で買ったばかりの服によく似ていた。その服は、3日前に1度だけ葉に着せて、一緒に夕方の買い出しに出かけた。

「まさか……この写真……」
「そのまさか、ですよ」

悠木先生がほんの少し画面をスクロールすると、葉の顔が現れた。
ほんの一瞬、私がトイレに行っている間に葉にアイスを渡して、休憩場所で待たせている時に撮られたのだろう。

「可哀想に。話しかけたらとても嬉しそうに色々話してくれましたよ。ついこの間も、ご飯を残したらお腹を叩かれて痛かったって」
「だって!それは……!」

葉が、テレビばっかり見てなかなかご飯を食べようとしないから。
食べ終わるまで

「理由は、私にとってはどうでもいいんです。興味もない。暴力を正当化する人間の言い訳など」
「言い訳なんかじゃない!」
「少なくとも、同じ母親としての経験を持つ歩美さんは……君の子育て方法には、異論を申し立てたいみたいだったが?」
「歩美さんが?申し立て?」
「そう。もし、私だったら決して暴力を振ることはしない。今度こそ大事に育てます。確かに、歩美さんは私にそう宣言した」

その言葉は、私をひどく不愉快にさせる。

「他人の子育てに対して、一体何の宣言をするって?まさか、私の代わりに葉を育てるとでも言うの?」
「その通りだ」
「…………は?」

そう言うと、悠木先生はまたスマホを操作した。
ボイスレコーダーのアプリを起動させて、再生ボタンを押した。

「ねえ、僕?このお腹、誰にやられたの?」

歩美さんの声がした。
まさか、あの日歩美さんがあの店にいたなんて……。

「ママ……」

葉はすぐに答えた。
その声は、いつものような、明るいにこやかな声。

「まあ、酷いわね。辛かったわね」
「ううん。ママね、お腹トントンした後にね、ぎゅーってするの。」

そこまで聞かせて、悠木先生はボイスレコーダーの再生を止めた。
私の手は、震えていた。

「これを、しかるべき場所で聞かせたら、君はどうなるかな?」