Side朔夜

もちろんそれだけでは確実ではない。
凪波に関する、思いつく限りの手段は考えた。
興信所を使うことも考えているが。


ただ業界に、僕たちの付き合いはほとんど秘密にしていた。


凪波は、かつては声優の卵として活躍し、その後僕が所属する事務所のマネージャーとして働いていた。そして今は自宅でできるようなライターの仕事をしていた。

そのため、業界の人間への連絡は躊躇った。
彼女が業界を離れなくてはいけない事件があったから。

去年、ネット上で、僕の恋人がいるという噂が立っていた。
その時はまだ、凪波はまだマネージャーとして現場にいたため、仕事として、その書き込みに対して対処し続けなければならなかった。

どうして、よりにもよって凪波が……。

「そんなこと、君がやる必要がないじゃないか。他の男にでもやらせればいい」
僕は、日に日にその対応でやつれて行く凪波を、見ていられなかったが。
「ううん……これは、私の仕事だから」
そう言って、1つ1つ、確認をしていく。
僕の恋人……自分への悪意を、無言で、淡々と。

「誰とでも寝るビッチ」

などと凪波とは全く違う人物像が書かれていた。
勝手に誰かが憶測を書いたのだろう。
もちろんそういうものはすぐに消えると思っていたし、実際いつの間にかそういう話は僕の目には入って来なくなった。

ただ、凪波はこの事件から、すぐマネージャーを辞めた。
理由は、「やりたいことが他にできたから」としか教えてくれなかった。