Side実鳥

「待って、どういうことですか!!」

メンテナンスって、何?
葉は、機械じゃないのよ。
人間なの。
私の体から出てきた、私の分身なのよ。

「お願い!葉を返して……!!」

私は、葉を取り戻そうと手を伸ばす。
その時、私と葉の間に、白衣姿の人が割り込んできた。

「あなたは……」
「山田、早く彼を連れて行きなさい」
「畏まりました」

山田さんが、葉を抱えてどこかへ行こうとする。

「ま、待って……待ってください……」
「実鳥さん、ダメですよ」

白衣の人……悠木先生が私の腕を掴む。

「あなたは、もう頑張った。これ以上は頑張らなくて良いんですよ」
「何言ってるんですか?ねえ……葉を返して……ねえ……お願いします……!」
「辛かったでしょう」
「何言って」
「本来、味方でいるはずの家族から見放され、誰からも声を聞いてもらえない」

悠木先生の言葉が、一体誰のことを指しているのかわかってしまう。
まだ私の中にあるのだろう。
あの人たちのことが、大きな傷跡として。

「…………そんなこと…………」
「ありますよね。記憶を無くしてしまいたいと、あなたは願ったことがあるはず。だから、ここに来たことがある。そうだろう?」

やっぱり。
この人は、最初から気づいていたのか。
私が、かつてここを訪れた訪問者であったことを。

「確かに私にもそんな頃がありました。でも今は……その記憶があってよかったと……」
「自分に嘘をつくのはやめたまえ」
「う……嘘なんか……」
「君は、かつての夫にひどく苦しめられた。女としての辱めも受け、人としての尊厳も奪われた」
「やめて……」

どこまで知っている?
この人は……。

「そして今、その男の血を引く子供に、君は人生を縛られている」
「やめて」
「願ったはずだ。この子さえいなければ、私はもっと自由に生きられたのに」
「やめて!!」
「吐きそうな思いをしなかったのに」
「やめて……やめてやめて……!!」
「海原君に愛してもらえたかもしれないのに……」
「やめて!!!!」

これ以上言わないで。
私の蓋を開けないで。
頑張って閉ざしていたのに。
凪波という重石を使って。