Side実鳥

「ははは、冗談ですよねー」

私は、わざと大口を開けて笑った。
冗談にしては、タチが悪いとは思ったけれど。

「何故、冗談だと?」

山田さんは、表情を変えなかった。

「……え?」

私の反応を受けて、山田さんは私ではなく葉の方を見ながら

「葉くん。この人がママになったら、もう、痛い思いをしなくてもいいんだよ」

と語りかけた。

「な、何言って……」

「本当!?」


私が山田さんに言葉の意図を聞く前に。
葉が山田さんに抱きついた。
葉の目は、とてもキラキラしているように見えた。
山田さんは、そんな葉の頭を撫でている。
まるで、猫を可愛がるかのように。


「ああ、本当だよ?今まで、何回痛いことされた?」
「んーとねー」


やめて。
お願い。
葉……!


「いっぱい!」
「そうか。いっぱいか。それは、辛かったね」
「あのね、でもね、ママね、いつもはニコニコしてるの。でもね、急にね、パシーンってするの」
「どこを、パシーンってされるんだい?」
「んーとねー……」


やめて。
やめなさい。
やめろ。

「ここだよ」

私は、葉が自分のシャツを捲る前に、葉の頭を叩いてしまった。

「うわあああああああん!!!!」

葉は、いつものように私を全力で叩きながら、爪で皮膚を引っかきながら暴れ始めた。
もう、私の腕には、消えない傷が増えていくだけ。

「葉、いい加減にしなさい!!!」
「いい加減にするのは、あなたですよ」

山田さんは、私の右手を掴んでから、私を睨みつけてきた。

「少し、調べさせていただきました」
「……何を、ですか……」
「あなたが、葉くんに対して、暴行を働いていることをです」