Side朝陽

何かを言わなくてはと思った。
謝るべきか、それとも悠木先生の俺への視線に対する抗議をするべきか。
でも、それを考える前に

「ごめんなさい!」

と、藤岡が手で俺の口を塞ぎながら、叫んだ。
それからの数秒。
藤岡の行動の意味を理解する時間を与えられないまま、藤岡が俺の前で土下座するのを俺は見下ろしていた。

「謝らせますから!どうか……」

俺は、この藤岡の行動で確信してしまった。
いつも堂々としていた藤岡が、ここまで自分をかなぐり捨ててまで、理不尽なことに許しを求めるのは、葉のことだけだ。

どうする。
今何をするのが正しい?
ただ立ったまま、藤岡の肩が震えるのを見ながら、俺は必死に考えた。

「実鳥さん」

悠木先生の声は笑っていた。
でも、顔はちっとも笑っていない。

「私はね、早く動きたいだけだ。……分かるかな?」
「わかります、わかりますから!だからやめて」
「ならば、あなたがすることは1つだ。早く、諦めさせてくれたまえ」

最後の一文は、俺の目を見て悠木先生は言った。
それだけで意味は全て伝わった。

「海原……ごめん……」

俺の足元から、藤岡の声が聞こえた。
藤岡は地面を向いたままだったけど、声だけでわかる。
藤岡が泣きじゃくっている。
こんな風に激しく泣く藤岡を、俺は見たことがない。
職探しを藤岡がしていた時でさえ、藤岡はここまで感情を出していない。

なんだ?
何がここまで藤岡を追い詰めた?

「悠木先生」

俺は、ふと頭によぎったもしものせいで、理性を失いそうになるのを必死で堪えながら尋ねた。


「今、葉はどこにいるんですか」


悠木先生は、一瞬だけ真顔になった。
それから数秒の後、大口を開けて笑い出した。