Side朝陽
悠木先生は、しばらくの間、雪穂を撫で回しならが何かを話しかけているようだった。
でも内緒の話をしているかのように、俺達には悠木先生の声は聞こえなくなった。
俺は、少しずつイライラしてきた。
こんなところに連れてきて、一体何をしたいと言うんだ。
1分1秒と、惜しいんじゃないのか。
凪波はもう、時間がない。
こんな所で、無駄に時間を過ごしている場合じゃないと言うのに。
早く、言わなくては。
凪波を戻して欲しいと。
凪波のところに戻って欲しいと。
俺は、一歩足を出した。
悠木先生に近づこうと。
でも、それを藤岡が止めた。
真っ青な顔をしながら、俺の服の裾を強く引っ張った。
そういえば、と思い出す。
藤岡はさっき言った。
「葉は、どうした?」
俺の言葉に、藤岡の体が震えた。
それから、藤岡が俺の服をもう1度引っ張りながら
「余計なこと、しないで」
と、小声で言った。
藤岡の声は、震えていた。
「どうした、藤岡……一体何をされた」
何があった、ではないのだろう。
ここまできて、それに気付かないほど俺は鈍くはない。
けれど、俺が聞いても、藤岡はただ
「これ以上、何もしないで」
と繰り返すだけ。
藤岡が最も冷静さを失うのは、葉のことだ。
この藤岡の動揺と、今ここに葉がいないのは、きっと繋がっている。
「悪い、藤岡」
「え?」
俺の服から藤岡の手を放させてから、俺は悠木先生に言った。
「話は、聞きますよ、先生。だからこれが何なのか、話してくれませんかね?」
すると、舌打ちが聞こえた。
悠木先生の口元から。
そしてくるりと俺に顔を向けると、心の底から嫌そうな顔をした。
まるで、ゴキブリを見るような目だと思った。
……この人の本性が見えた気がした。
悠木先生は、しばらくの間、雪穂を撫で回しならが何かを話しかけているようだった。
でも内緒の話をしているかのように、俺達には悠木先生の声は聞こえなくなった。
俺は、少しずつイライラしてきた。
こんなところに連れてきて、一体何をしたいと言うんだ。
1分1秒と、惜しいんじゃないのか。
凪波はもう、時間がない。
こんな所で、無駄に時間を過ごしている場合じゃないと言うのに。
早く、言わなくては。
凪波を戻して欲しいと。
凪波のところに戻って欲しいと。
俺は、一歩足を出した。
悠木先生に近づこうと。
でも、それを藤岡が止めた。
真っ青な顔をしながら、俺の服の裾を強く引っ張った。
そういえば、と思い出す。
藤岡はさっき言った。
「葉は、どうした?」
俺の言葉に、藤岡の体が震えた。
それから、藤岡が俺の服をもう1度引っ張りながら
「余計なこと、しないで」
と、小声で言った。
藤岡の声は、震えていた。
「どうした、藤岡……一体何をされた」
何があった、ではないのだろう。
ここまできて、それに気付かないほど俺は鈍くはない。
けれど、俺が聞いても、藤岡はただ
「これ以上、何もしないで」
と繰り返すだけ。
藤岡が最も冷静さを失うのは、葉のことだ。
この藤岡の動揺と、今ここに葉がいないのは、きっと繋がっている。
「悪い、藤岡」
「え?」
俺の服から藤岡の手を放させてから、俺は悠木先生に言った。
「話は、聞きますよ、先生。だからこれが何なのか、話してくれませんかね?」
すると、舌打ちが聞こえた。
悠木先生の口元から。
そしてくるりと俺に顔を向けると、心の底から嫌そうな顔をした。
まるで、ゴキブリを見るような目だと思った。
……この人の本性が見えた気がした。